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有森 それはもう(笑)。特にアトランタの前にかかとを手術した際は、「もう二度と走れなくなるんじゃないか」と不安で仕方ありませんでした。ケガや故障で走れなくなるたび、小出監督は「『せっかくケガしたんだから』と思って休めばいい」とよく言っていました。マイナスのことをマイナスとしてとらえるよりも、「せっかくのチャンスだ」って考える方がいい。小出監督には本当にいろんな言葉をいただきましたが、この「せっかく」という言葉は特に印象に残っています。
有森 目的をはっきりさせることです。監督は、一生添い遂げるパートナーじゃないんです。「早く走りたい」という一番大きな目的が一致していたら、それでいい。その他の部分、例えば性格や生活習慣が一致しなくてもかまわないし、一致する必要もないんです。会社の上司と部下についても同じじゃないでしょうか。「仕事を成功させる」という目的だけをシンプルに考えれば、人間性やお互いの性格についてあれこれ考える必要はないと思うんです。一緒に仕事をする人と、そんな部分まで意思疎通しようと思ったら大変ですよね。大きな目標をはっきりさせれば、あとの小さな悩みは消えていくはずです。
有森 言葉が分からなくても、違う文化を持った人同士でも、スポーツで一緒に体を動かせば自然に笑顔で向き合えるようになる。私は2度のオリンピック出場や数々の国際大会を通じて、スポーツの大きな力を体感してきました。そして、私がそのような舞台に立てたのは、たくさんの人に支えてもらったから。だから今度は私が恩返しをする番だと思っています。以前、私が走っていたのは食べるための手段(=ライスワーク)としてでした。今はもうある程度食べられるようになってきたので、今度は本当に自分のやりたいこと、ライフワークに時間を割けるようになってきたんです。私にとっては、それが社会貢献活動であったり、スポーツを通じていろいろな人と繋がることなんです。
有森 一緒であればいいとは思いますけど、そんなことって滅多にないですよね。好きなことと、得意なことは違います。よく仕事のことを指すうえで「自分に合った仕事がしたい」、「好きなことを仕事にしたい」という話を聞きますが、好きなことと、得意なことが必ずしも一致するとは限らない。そのことに気づかなければ、いつまでたってもライスワークを確保できません。ライフワークというのは、本当に好きで、無償であってもやりたいこと。まずは生きる術としてのライスワークをしっかり確立した上で、ライフワークに打ち込んでもいいと思います。

有森 そうですね。スポーツはタイムや点数など、成果が数字で明確に表れるので分かりやすいですが、根本的には仕事や勉強も同じだと思います。
有森 私はたくさんの人に支えられながら走ってきました。オリンピックという素晴らしい舞台にも立てたし、多くの素晴らしい人たちとも出会えました。だからこれからは、恩返しをする番だと思っているんです。それが、社会貢献活動や講演活動なんですね。プロ化宣言をした時も、私は後進のためにというよりまずは自分のために動きました。同じ道を進むかどうかは別にして、私の活動を見て、何か感じ取ってくれたらそれでいいと思ったんです。講演活動も、誰かの指針になろうなんて大それたことは考えていません。ただ、私の話の中で、何か一つでも心に響く言葉があって、それが、その人が動き出すきっかけになればとても嬉しいです。


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