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池谷裕二 講演会講師インタビュー

1970年生まれ。1998年に東京大学にて薬学博士号を取得。2002~2005年にコロンビア大学(米ニューヨーク)の留学をはさみ、2014年より現職(東京大学薬学部教授)。
専門分野は大脳生理学。とくに海馬の研究を通じて、脳の健康について探究している。
文部科学大臣表彰 若手科学者賞(2008年)、日本学術振興会賞(2013年)、日本学士院学術奨励賞(2013年)などを受賞。
著書に『海馬』『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』などがある。
多方面で活躍する池谷裕二氏にやる気やモチベーションを出す方法、脳科学の観点から見たAIの未来について伺った。

(text:大橋博之、photo:小野綾子)

「やる気」が出てこないのは当たり前のこと

──講演会を行うようになったのは何が切っ掛けなのでしょうか?

 

池谷裕二 2001年に初めての著書『記憶力を強くする』(講談社ブルーバックス 2001)を上梓し、その後も何冊も著書を刊行させて頂きました。それらを読んだある団体からお声が掛かったのが最初です。

私の専門である脳科学についてお話させて頂いたところ好評だったので、その後も定期的に呼んで頂くようになりました。

 

現在も銀行系など様々な企業から依頼を頂いています。
しかし、研究に専念するため、講演会は月に1回くらいに抑えており、お断りすることも多くあります。
でも、2019年は数えたら何故か20件以上はありました(笑)。

 

 

──講演会ではどのようなテーマが多いですか?

 

池谷裕二 東京大学の薬学部で教授を務めており、脳が専門なので、記憶力の話が多いですね。

脳から見た「やる気」とか、「モチベーション」の話をさせて頂いています。

 

 

──「やる気」が出なくて困っている人は多いと思います。どうすれば「やる気」は出るのでしょう?

 

池谷裕二 「やる気」は、行動を起こすために必要なものと思っている人が多いですが、本当は結果でしかないんです。

行動を起こして初めて「やる気」が付いてくるんです。
だから、やり始めない限り「やる気」が出てこないのは当たり前。だから、まずやり始めることが大事です。

 

そう言うと「なんじゃ?」と思われるので、研究論文を許に、科学的に検証されているデータを用いて説明しています。

 

 

──「やる気」なんてそもそもない?

 

池谷裕二 「やる気」は幻想です。よくよく考えると「やる気」というのはやる気のないときに使う言葉。やる気がみなぎっているときに「おや?すごくやる気が出ているぞ!」とは思わないでしょ(笑)。

 

人は追い込まれないとやらないものです。でも、追い込まれても普段はやらない掃除とか整理整頓を始めちゃったり。つまり、現実から逃げちゃうんです。それで自己嫌悪に陥る、というのは誰にでも起こる悪いループです。

 

 

──確かに(笑)

 

池谷裕二 「やる気」というのは、言い逃れのための方便です。そのように捉えると「やる気を考えること」がダメなわけで、「やる気」が出なくても出来るシステムが大事です。

 

 

──「やる気」は必要ではないんですね。

 

池谷裕二 そうです。「やる気」がないからやれないのではなく、やらないから「やる気」が出てこないんです。

人は「やれないのはやる気が出てこないからだ」と言い訳にしています。これは脳が後付けで理由を作り出すからなんです。人間は自分で自分を騙すもの。認知バイアスを起こします。

 

大事なのは、「やる気がなくてもスムーズに出来ること」。「やる気スイッチ」はどうやったら入るのかというと、始めることです。面倒なことでもやり始めると乗ってくることはよくあります。

 

なにかにつけ「やる気」などといった、感情を全面に持ち出すと失敗します。これを専門用語で「システムに身を置く」といいます。出来る人は「やる気」を出そうと頑張るのではなく、システムに従う人です。余計なことを考えないことです。

 

 

──池谷さんが「やる気」が出ないときはどうしてますか?

 

池谷裕二 とにかく机に向かってしまいます。「やり始めて、気分が乗ってきたら、いま想像している以上の力が出る」と自分で知っているので、机に向かうことでハードルが下がります。

あと、集中するために好きな音楽をかけます。目の前の仕事が嫌でも、好きな音楽を聴くことで中和されるんです。でも、集中しだすと音楽は聴こえていません。「気が付いたら1時間経っていた」というのが集中している状態です。

 

 

──好きな音楽を聴くことで嫌なことが中和されるというのはいいですね。

 

池谷裕二 はい。それから、目を閉じて、テニスボールを頭に乗せて、落とさないようにバランスを取っても集中モードになりますよ。実際にはテニスボールはいらなくて、テニスボールが頭の上に乗っていると30秒くらい意識するんです。乗っていると意識できた状態で目を開けると、目の前のことに集中できます。これはよくやっています。

 

 

──それはぜひ、試してみたいですね。

 

池谷裕二 テニスボールが頭の上に乗っていると意識することで視野が固定されるんです。競馬の馬は、気が散らないように前しか見えないように、ブリンカー(遮眼革)を付けますよね。それと同じです。

でも、集中するというのは本来、ダメなことなんですよ。

 

 

──どういうことですか?

 

池谷裕二 動物は目の前のことだけに集中していると、外敵に狙われます。常に周りに気を散らせて、注意力散漫であることの方が大事。だから、人間も動物である以上、集中するのは苦手なんです。

 

 

脳は200年は使える

──池谷さんのテーマにある「記憶力は老化しない」とはどういうことなのでしょうか?

 

 

池谷裕二 記憶力は歳を取っても衰えない、ということです。歳を取ったら物忘れが激しくなる、というのは嘘です。置き忘れをするのは子どもの方が多いんですよ。違うのは、子どもは「歳を取ったな~」と思ったり落ち込まないことです(笑)。大人は置き忘れないようにする工夫を身に付けています。メモを取るとか同じ場所に置くとか・・・。自分なりのルールを作って防止策を取っています。

 

「歳を取ったから記憶力が衰えた。もうダメだ」と思うことで記憶力を下げているというデータも発表されているんですよ。

病気や認知症などを別にして脳は衰えず、150年、200年は使えます。

 

 

──200年ですか!

 

池谷裕二 ただし、生身の身体が120歳を超えるのは難しいかもしれません。

今は「人生100年時代」と言われていますが、講演でも「今後、100歳の人はもっと増えていきますよ」というお話をしています。寿命の中央値は男性84歳、女性90歳です。90歳までは普通に長生きします。でも、考えなければならないのは、90年前のいわば原始的な医療や食生活で生活してきた人が90歳まで生きていることです。今の小学生の中央値は107歳という計算があります。

 

 

──100歳まで生きて行くのもタイヘンなのに、もっと生きなければならないんですね。

 

池谷裕二 悠々自適の老後はなくなり、100歳まで仕事をしなければならなくなるかもしれません(笑)。

でも実は、動物にとって悠々自適はあまり楽しくないんですよ。これはコントラフリーローディング効果という実験で分かっているのですが、いつも餌がある環境のマウスを、レバー押さないと餌が出てこない環境に入れると、やがてレバーを押して餌を手に入れることを覚えます。でも、不思議なことに、いつも餌がある環境にしても、わざわざレバーを押して餌を食べるんです。つまり、働かないで手に入れる餌は美味しくないんです。

 

 

──脳は最初から200年は持つようにできていたり、労働を喜ぶように出来ているんですね。

 

 

池谷裕二 記憶力の話に戻すと、興味を失ってマンネリ化すると記憶力は衰えます。子どもも衰えるんですが、マンネリ化しにくいんです。どんな世界でも輝いて見えるから。

「でも、歳を取ると人の名前がなかなか出てこない」とよく言われますが、子どもなら知り合いも数十人です。大人になると友達や歴史上の人物、政治家、タレントと覚える人の名前は増えていきます。そのなかからひとつを選ぶのに時間がかかるんです。

 

 

──脳の記憶のデータが多いから検索に時間がかかるんですね。

 

池谷裕二 そうです。だから、なかなか出てこないというのは、それだけ情報量が多い、ということなので、自慢してもいいことなんです(笑)。

 

 

──歳を重ねた人はポジティブになれる話ですね。

 

池谷裕二 講演会では、いくつかの誤解を時間をかけて解説していきます。

 

──子育てもテーマにされていますが、これは?

 

池谷裕二 賢い子に育てる方法と、子どもにどう接すればいいのか、の両方のお話が出来ます。

ただ、勉強をさせたい親の気持ちは理解できますが、勉強をさせることだけが総てではないということをやんわりと伝えています。

よく「今の若いものは!」という話をしますが、実は、最近の若者の方が優秀なんです。

スポーツにしても、世界新記録をどんどん更新しているでしょ。若者がダメなら世界新記録を出せるわけがありません。フィギュアスケートにしても4回転半ジャンプは男子しか出来ないといわれていたのが、今では女子でも飛べるようになりました。

私の研究室でも、私の学生時代より今の学生の方が賢いと思います。だから、「日本は学力が低下している」と言われていますが悲観することはありません。

 

 

──どんどん優秀になっているんですね。

 

池谷裕二 コロナの影響でリモートで仕事をするようになりました。するとどうなるかというと、優秀だけど、外出が困難だったり、コミュニケーションが取りにくい人も社会に進出しやすくなります。

企業はそんな人たちを上手く活用することが重要です。そのような人たちも社会で役に立つのは嬉しいはずなので、もっと進出してくるでしょう。

 

 

AIを怖がっていてはいけない

──あと、脳科学の観点から見たAIの未来について教えてください。

 

池谷裕二 実は私の父親はエンジニアなんです。私も中学校の頃からプログラミングをしていました。だから昔のAIからよく知っているんです。専門としては脳の研究をやることになったため、逆に、脳とAIを融合研究できる立場にいます。現在は、大型プロジェクト「ERATO」で「池谷脳AIプロジェクト」の総括を担当しています。

AIは視覚情報の処理は得意で、音声情報は苦手でした。でも、今は音声入力が普通に使えるまでに進歩しました。私もメールや文章は音声入力です。

 

 

──未来はどうなるでしょう。

 

池谷裕二 AIが人間に取って代わって仕事をすることになります。しかし、その分、今はない仕事が生まれ、人間はそこに働くようになります。AIは私たちを変えていきます。私たちはその変革の真っただ中にいます。10年先は読めません。

 

 

──専門家でも10年先が読めないのですか?

 

池谷裕二 日常生活はさほど変わらないと思いますが、ゲームチェンジャーがどんどん出てくるでしょう。普及するのに5年はかかるので、日常レベルは5年後では大きな変化はなくとも、10年後になるとわかりません。

特に医療の進歩は凄いです。10年前に助からなかった人が助かるようになります。10年後はもっと助かるようになります。

 

 

──怖くなります。

池谷裕二 はい。ただ怖がっているだけではダメで、前向きに考えないといけません。

 

 

──人類はAIと共存して生きて行かないといけないわけですね。

 

池谷裕二 一緒に生きて行くのは楽しいと思います。今以上に人間とAIがタッグを組むようになるでしょう。人間には限界があり、AIにも限界はあります。でも、両方がミックスすることで、お互いの限界を超えられるようになります。

裁判にもAIが導入されていますが、AIに「死刑」とは言われたくないですよね(笑)。その判断は裁判官にあるというのは変わらないでしょう。企業の社長もそうです。AIで経営の助言は得るけど、最後の判断は社長の仕事となります。

 

 

──池谷さんにはいろんなお話が聞けそうですね。

 

池谷裕二 一番、伝えたいのは「脳の使い方」です。脳のことを理解していれば、その延長線上にやる気や教育、学習のことも自ずと見えてきます。脳の特徴や特技をちゃんと知っていればAIも怖くはありません。

 

──とても貴重なお話しありがとうございました。

 

 

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