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岩出雅之 講演会講師インタビュー

1958年和歌山県出身。今年9月に開催されたラグビーワールドカップ フランス大会の日本代表、主将・姫野和樹選手や副主将の流大選手など、数多くの教え子たちを輩出した名将・岩出雅之さん。日本体育大学時代、ラグビー部でフランカーとして活躍し、78年度全国大学ラグビーフットボール選手権では優勝への原動力となり活躍。公立中学、高校教員として勤務した後、96年に帝京大学ラグビー部監督に就任。09年から17年まで9連覇を含む全国大学ラグビーフットボール選手権大会で10度の優勝を果たした。22年から帝京大学 スポーツ局 局長、スポーツ医科学センター教授として学生らの育成に注力している。講師派遣Speakers.jpでも多くの講演会を実施している岩出雅之さんにお話しを伺った。

(text:加藤みのり、photo:増本雅人)

人を育てるためには文化が必要

――岩出さんは選手として日本体育大学時代にはキャプテンを務められ、3年生の時には全国大学ラグビー選手権でも優勝されていますが、指導者になろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?

 

岩出雅之  そうですね、やはり高校時代にお世話になった先生の影響が大きかったと思います。教育実習で来られた体育の先生で、日本体育大学4年生でラグビー部に所属されていた方でした。私が本格的にラグビーに打ち込み始めたのは高校2年生の夏頃ですが、ちょうどその時期はいろいろな意味で今後の自分自身について模索している時でした。その時、先生からお声がけをいただいてラグビーにのめり込んでいったんです。

情熱的な方で、常に一生懸命に私たちを指導して下さる先生でした。その方のお陰で人を導くという事がいかに大切であるかという事に気づかされました。指導者という役割がとても魅力のある仕事だなと感じるようになったのです。それで進路指導の際、当初は違う大学を考えていましたが、先生と同じ日本体育大学へ進学して卒業後は教師になると決めました。いずれ自分自身も先生のように指導者として人を育て、いろいろな部分で人を導いていけるようになりたいと考えるようになっていました。それが自分の目指すものが見つかった時期でした。

 

――帝京大学で監督として大学選手権9連覇を含む10回の優勝を果たされていらっしゃいますが、チーム作りをする上でどのような事に重点を置かれていましたか?

 

岩出雅之 人を育てるためには、やはり文化が必要だと思います。例えば、大学生はまだまだ幼いところが多くあります。そのなかでリーダーシップや組織の長を任せられるというのはなかなか難しい事です。とくに1年生には自分自身を整えていく自分作りの時間や作業が大切です。まずは落ち着いた日々の生活と目標をしっかりと持って、それに向かっていくような努力をさせるようにしています。昨今は少子化でご家庭では大切にされて育ってきた子供達が多いです。好きな事は夢中になってやるのですが、嫌いな事はしない傾向にあり、とくに上からの命令により動く事ではモチベーションが上がりません。もともと人間は自律性のない事でモチベーションは上がりませんからね。外部からではなく、本人が内発から興味、意欲、楽しさが感じられる事でモチベーションが高まります。ですから、まず自分がしっかりと自分自身の事を見つめて気持ちを整えながら前に向かっていくという作業ができる環境を作ってあげるという事が大事かなと思います。

私が指導者としてアプローチしたり、サポートする事ももちろん大切なのですが、組織として、ラグビー部員150人近くのメンバー達のなかで文化を築き上げていくという面では、上級生の力も借りながら上下の人間関係をうまく整えていく事も重要です。お互い連携しながら文化性を高めていく事によってみんながそれぞれ繋がっていくのではと考えています。

 

――具体的には大学1年生の学生が自分の棚卸しをする、見つめ直す作業をして、そこからどのように目標設定をしっかり立てていくのでしょうか?

 

岩出雅之 人それぞれ育ってきた環境が違うので、部員一人ひとりの捉え方や落ち着き方も違います。しっかり物事を考えて目標を持っている部員もいますし、ちょっとほわっとした部員もいます。それをみんなで見守りながら、いかにその人に合った介入や、関わり方をしていくか。それは指導者だけでなく、スタッフも同じです。できれば上級生自身も、同学年の仲間同士でも、そういう事が出来るような繋がりを作る体験をして行く事が大事かなと思います。自分のためには出来ても、他人のためにはなかなか難しいところがあると思うので、そういう意味ではまずは上級生がサポートをしてあげて、余裕と深み、この両方を持たせていく。一方で自分自身が今度、上級生になった時にはしっかりとサポート側に回っていくやり方です。それから、同じサポートでも管理と放任の間といいますか、介入のさじ加減も大切ですね。管理しすぎても自律心は育まれないので、本人の自律心をくすぐるような関わり方が理想的です。

そのなかで本人が自分自身の可能性を見つけていける、諦めたり自信を無くしたりするのではなく、前に向いた可能性を見つけていくような関わり方をしていくという事です。その活動と本人の考え方に目的というのはしっかりあると思いますから、それが分かるような提示の仕方を上級生でも出来るようにする。その上で、状況や対象者のレベル、心理状態をしっかりと観察しながら介入の感触をその都度変えていくということでしょうか。例えれば、自転車の補助輪みたいなものです。自転車に乗れない時期には付けますが、やがて乗れるようになったら外しますよね。ちょっと力のない子には丁寧に寄り添ってあげる。でも、もう必要のないレベルまで到達してきたら少しずつ離れていき自立を促す。そういう距離感をつかめるような伴走の仕方をしていくのです。

 

――具体的にお聞きすると、例えば4年生が1年生に対して最初にどんな事をするのですか?

 

岩出雅之 集団生活ですからいろんな意味で練習活動にしても寮生活にしても雑務というものが多いですよね。練習であれば道具の準備や片付けがある。そういう雑務を4年生が引き受けています。彼らは学校生活やラグビー部での活動に関して熟知していますし、当然ながら余裕もあります。いってみれば4年生は母親のように下級生の世話を焼き、下級生はそうした世話や愛情を「授かる」事で、自分自身のことに集中できます。4年生は自分が下級生の頃、同じように4年生から世話を焼かれ、愛情を「授かった」経験がありますので、下級生のために雑用をこなす事は当然だと受け止めています。下級生から尊敬や感謝されることに歓びを感じて取り組む者も多いです。

両者がそれぞれの体験の中でアウトプット、インプットをしています。これらが繰り返される事でお互いの関わりの中から学ぶ事は多いと思っています。そういう中でフィードバック文化を作っていきます。

最終的にはフィードバックではなく、自分自身で内省できるようにしていく人に育てていく。それをサポートしてあげるということですね。

 

指導者として環境的にウェルビーイングを作り、未来に繋がる4年間にしてあげる

――大学生の気質もご指導を始められた時から今では随分と変わってきたと思いますが、そういった部分で感じる事はありますか?

 

岩出雅之 そうですね、変わってきていますよね。干渉される事を嫌いますし、一人っ子も多いから自己中心的に物事を考える子もたくさんいます。話を聞かない子もいます。Z世代独特の特徴をよく感じるようになったのは確かなのですが、ここ10~15年の時間をかけて少しずつ、少しずつ変わってきたという気がします。だからといって、無理矢理にトップダウンの指示命令を提案しても、モチベーションは変わらないと思います。かといって、ボトムアップですぐに力がつくかといったら、0から1にするのは難しい。やはり、一律のマニュアルによる管理ではなく、また放任でもない、適切な関わり方という位置づけが大切なんじゃないかと思います。管理と放任、その間というものを見つけていくような指導の連続ですね。

今の若者たちは協調性がないと言われていますが、実は他人との関係性もちゃんと持ちたがるんですよね。コミュニケーション能力が低いとも言われたりしますが、彼らはLINEの短いやりとりなど、簡単なコミュニケーション経験をいっぱい積んでいる。ならば、そうじゃない経験を少しずつしていきながら価値を理解していけば自ずと目的も見えてきます。

ただ、最初から1年生にそれを求めてもちょっと難しい。いちばん下手なのは対話力なので、先ずは上級生の考えを受けいれるということも必要かもしれません。コップでいえば自分の中にある一杯分の考えをちょっと外に出して、自分の考え方が新たに入る余地を持ちつつ、上級生の話を聞けるようになるというのが良いですね。

 

――学生を指導する上で岩出さんが最も大切にされている事はありますか?

 

岩出雅之 自分を大切にさせる事です。まず、人の犠牲になるとか、人を大切にしようという事を求める前に、自分自身を大切にさせるところからだと思っています。他者に目が向けられるようになるのはそれからです。そこから視野や考え方が変わってきます。

次に目的に対して、自分だけでできるのかという事を実感させる。チームのみんなでやらなければやっぱり目的は達成できないのだという事を実感させるのです。すると、人との繋がりにおいて、自分が避けてきた事に対してもしっかり向き合っていかなければならなくなります。例えば、相手に対して感情的になってしまうのであれば、それがこれまでの自分のなかにあるどんな経験が作り出しているのかを探る作業に繋がります。恐らく何か嫌な事があったという背景があるのでしょう。そこをちゃんと見つけて、意見の対立がどこから起こっているのかとか、考え方の違いがどこから起こっているのかということをお互いがうまく内省できるように持って行くということが大事かなと思います。

 

――では、監督として大切になさっていた事はございますか?

 

岩出雅之 全国大学選手権などで良い記録を残せたという事は事実ですし、組織を作っている人間だと思われていますけれども、お恥ずかしい話、指導者として大学スポーツのラグビーの中では最初は勝てなかったんですよね。自分が勝ちたかった時って、意外に勝てないんです。

指導者が勝ちたいと思っても学生がその気になっていない事も多いわけです。次第に学生たちに勝たせてあげたいという気持ちが強まるようになり、幸せにしてあげたいなという思いを抱くようになってから、不思議と一気に勝てるようになりました。今でいうと、「ウェルビーイング」ですね。人間ってウェルビーイングに向かってはみんな賛同するんです。指導者として何を残すかといえば、やっぱり環境的にはウェルビーイングを作っていくという事です。4年間の大学生活を大切にしてあげて、それが未来にも繋がる4年間にしてあげるという事ですね。言いかえれば、人生が進めば進むほど「大学時代が良かった」とその当時の事ばかりを振り返るのではなく、もっと最良へ、未来に歩いていく人となるように。僕自身はそういう彼らの未来を作っていくためのサポートをするのが指導者の役割だと思っています。

「何を聴いてもらいたいか」という事ではなく、聴講者が何を聴たいのか

 

――講演会ではビジネス向けやスポーツ指導者向けなど対象者別にご講演されていますが、どのようなお話をされていらっしゃいますか?

 

岩出雅之 ニーズによるのですが、最近の企業側からのご依頼についてですと、やはり組織をどうやって作っていくかという質問もありますし、なかなか企業体質がうまく改善できないのはどうしてなのかとか、心理的な安全性について求められます。「なぜ、こんなに強いの?」というようにシンプルに勝ち方を教えてもらいたいというお声もいただきます。
それに対して私は、負けない事だと思うのです。勝ち負けって相関でいくらやっても勝てない時もありますし、勝負事ですからね。でも、少なくともしっかりときちっと守るべきところを守っていく。安定した勝利というのは、やっぱり負けない組織を作っていく事が重要だと思っています。スコアでいくと60対0じゃなくても、3対0でも勝ちですからね。取って取られてという流れになってしまうと、どちらかが疲弊するまで終わらない。価格競争すると疲弊するのと同じですよね。やっぱり安定したものを作り出すという考え方が大事なのかなと思いますね。講演会ではそういう事を含め、若者の気質や中間層の考え方、組織に必要な事についてお話をさせていただいています。

 

――企業によって求められるテーマは異なりますか?

 

岩出雅之 それは明らかに異なると思います。業態や年齢層、企業体質等で違ってきます。大企業など大型の組織だったらトップからボトムまでなかなか届かないことが多いと思いますが、中小企業のような小型組織なら届くじゃないですか。でも、人数が多いとやっぱり属人的な指導に限界があります。最終的にはやっぱり企業方針や思いをみんなで共有していくような関係性や、本当のスイッチが入っていくような体質を作っていくということが大切。今は情熱を仕事に傾けない人も多くなっているなか、いかにそういう部分をくすぐっていくか。限界があるからどこでもチームワークという分業型にしていくとかね。お互いがやるべき事が繋がっていかないといけないと思うし、精神的にも安心感のある環境下のもとであれば挑戦心も高まっていく組織になると思います。講演会ではそんな現実的要素をうまくお伝えできたらいいと思っています。

 

――スポーツ指導者向けの講演もありますか?

 

岩出雅之 ありますね。スポーツ指導者向けの講演会は正直、私より年齢が上の方も多いですから、私がわかる事であれば全部お話させていただく気持ちでいます。「どうですか?」とお話に耳を傾けていると、皆さん一生懸命なのだけど、余裕がないということを多く仰いますね。人間って本質、肝となるところをちゃんと押さえていくと、意外にすーっとうまく運ぶんですよ。でも、それはマニュアルを読むなどという事では得られるものでなく、経験値と思考のスキルだと思うんです。本質をちゃんと見極めていく力って難しいですが、それを直感的に判断できるようになるためにはある程度の経験値が必要だと思っています。

 

――学生や父兄向けの講演ではどのようなお話をされていらっしゃいますか?

 

岩出雅之 保護者からは、思春期の子供にどう関わっていけばよいのか分からないというお悩みもあります。そこはわが子を信じて見守ってあげればよいのではないかと思います。現代では教育の質が問われる時代になっているので、その方々の情報や状況をお聞きしながら、私の場合はこうしていますというようなお話をさせてもらいます。すると意外に参考にされる方が多いですね。最後は心をどう掴むかじゃないですか。理屈を捏ねて伝えても伝わらないと思うんです。そこにエモーションを起こさせていかないと。そのためには相手の背景をちゃんとおさえながら心に入っていくような努力はしたいなといつも思いながらお話をさせてもらっています。また、保護者の方にしてみればすぐに答えを導きたいという気持ちがあるかと思いますが、良い答えを早急に求めすぎると子供は嫌がります。少しずつ、少しずつでいいと思うんですね。僕も4年間かけて行っているわけですから。一方、学生からの悩みは「僕らの出番って何かな」というところです。悩むっていう事は困っている状態に陥っているわけです。個人的に何か問題にぶつかってうまくいかないとか、レギュラーになれない、試合で使ってもらえないとか、試合中のピンチなど、そういう事態の時に逃げないという事を教える。まずは気持ちを落ち着かせて希望を持たせてあげる事が大切だと思います。的確な指示をする事でそういった場面でも対処できるという事を経験も兼ねて学生には学んでもらいたいと願っています。

 

――講演会で特にお伝えしたい、聴いてもらいたいという内容を教えて下さい。

 

岩出雅之 私が何を聴いてもらいたいかという事ではなく、聴講者が何を聴きたいのか、それに対して講演内容を検討します。私の場合、スポーツの話が主軸ですが、集団心理を向上させるための心理的なお話をよくさせてもらっています。結局、チームが勝ちだしたのは心理的な事を勉強してからですから。

 

――ご著書のなかでも哲学書やデータ的なところを参考にされていらっしゃいますよね。

 

岩出雅之 自分が長年やってきたなかで、こういう流れだとこういう風になるのではないかというのは経験上では理解できる事です。心理の勉強をしていくと、それが学説的にはっきりと証明されている事がわかって、“あれ? 自分のデータ感覚と見合っている。やっぱりそうだったんだ”と合点がいくわけです。例えば、組織の人数は何人ぐらいがベストなのか? それを自分が肌感覚で導き出してきた数とデータが合致する。ただし、データだけに頼る頭になってしまうのではなく、自分の感性を整えるように努めています他の大学とともにラグビーという競技の発展、そして伝統の継承をみんなで作っていければいいと思います。

 

――2022年に退任され、チームは今年も大学選手権で優勝をされました。監督時代と現在のチーム運営では何か変わった事はありますか?

 

岩出雅之 正直なところ、まだ新しいチームの運営に不安はあります。だから新監督にはまだちょっと伴走してあげないといけないかなとも思いますし、いきなり100から0に距離感を引き離してしまうのではなく、少しずつ距離感をもっていこうかなという事をベースに持ちながら、選手も指導者たちも自信を持って更なる躍進をしてくれる事を願い、応援しています。帝京大学だけが勝てば良いという考えではなく、ほかの大学とともにラグビーという競技の発展、そして伝統の継承をみんなで作っていければいいなと思います。

 

――岩出様が指導した選手がラグビー日本代表としても数多く活躍されていらっしゃいますが、今後の日本ラグビーに期待する事を教えて下さい。

 

岩出雅之 まずはワールドカップの経験を経て、更なる飛躍へと繋げていってもらいたいですね。子供達が夢を持ち、大人がそこにまた夢を求めにくる、スポーツの力で幸せを埋めるような、そんな競技になってほしいと思います。

 

――貴重なお話をどうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

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