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杉山文野 講演会講師インタビュー

早稲田大学大学院教育学研究科修了。女子フェンシング日本代表として活躍。大学でジェンダー論を学び、トランスジェンダーである自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』(講談社)を刊行。卒業後、2年間のバックパッカー生活を過ごす。帰国後、大手外食系企業に勤めた後、独立。多様性に富んだ人々がフラットに集まれる場づくりと、多様性に関する講演・研修・企画提案の二つの事業を行う「ニューキャンバス」を設立。日本最大のLGBTQプライドパレードの運営を行う東京レインボープライド共同代表理事を務め、日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ制度制定に関わる。現在は2児の父として子育てにも奮闘中。日本フェンシング協会理事、日本オリンピック委員会(JOC)理事。
そんな公私ともに多忙な杉山文野さんに今、伝えたいことを伺った。

(text:大橋博之、photo:小野綾子)

多様な価値観をシェアしないとグローバルには生き残れない

 

──杉山さんはさまざまな活動をされていますね。

 

杉山文野 私にとって最も大きな役割は、「違いを超えて集まる場を作ること」だと考えています。

その具現化が、日本最大のLGBTQプライドパレードである「東京レインボープライド」の運営や、自治体、企業、学校等での年間100本程度の講演や研修、イベントへの登壇。生まれ育った歌舞伎町を拠点とした、街の清掃に取り組む「グリーンバード歌舞伎町チーム」。日本フェンシング協会や日本オリンピック委員会(JOC)の理事。あと、飲食店の運営などもあります。

今、おっしゃられたように「いろんなことをやっていますね」とよく言われますが、全て、「違いを超えて集まる場を作ること」であって、私としては一貫したことなんです。

 

──「違いを超えて集まる場」とは、どういうことなのでしょうか?

 

杉山文野 世の中にはいろんなカテゴリーの人達がいます。今まで交わってこなかった人達が交わることによってイノベーションが生まれ、その出会いによって勇気づけられることがあります。そのことは誰より私自身が経験してきたことです。今度はそんな「場」を私自身が作りたいと考えて活動しています。

 

──杉山さんは女子フェンシングで日本代表として活躍され、現在は日本フェンシング協会理事を務め、2021年から日本オリンピック委員会の理事にも就任されました。 

 

杉山文野 私は10歳から25歳までの15年間、フェンシングに取り組んできました。その経験と引退してから15年間、社会活動に関わって来た経験の両方を活かして、スポーツ界の多様性推進と心理的安全性の向上ができたらという想いで関わっています。今までやってきたことが全てつながっている。30年分の経験を活かせることに嬉しさを感じています。

 

──スポーツ界でのジェンダーやパワハラ問題などはよく聞く話ではありますね。

 

杉山文野 スポーツ界は良くも悪くも体育会系で男社会。「足が痛い」と訴えても「走れば治る」と言われる(笑)。それによっていろんな弊害が出てきました。ジェンダーやセクシュアリティに対する無理解、パワハラやセクハラなどの問題など、たくさんあります。

ただ、その問題を責めるのではなく、今不安を抱えながら競技する選手や関係者の問題を解決すれば、まだ活かされていないポテンシャルが発揮される可能性がある。それだけの伸びしろがあると思っています。

 

──と、いうと?

 

杉山文野 例えば、最近、よく言われている「心理的安全性」。不安を感じることのない状況があれば、個人としてもチームとしてもパフォーマンスが発揮しやすくなります。

私自身、トランスジェンダーであることをフェンシングの選手である間は言えませんでした。「バレたらどうしょう」という不安が常にありました。誰であっても不安を抱えながら何かに打ち込むのはとても難しいことです。

でも、自分の安全な居場所があるという安心感があれば、もっとトレーニングに打ち込めます。すると成績も出せるようになるはずです。

それは選手だけでなく、コーチ、監督、周りで関わる皆さんからファン、お客さんも含めて、です。

安心感を持って過ごせるスポーツ界が理想です。スポーツは発信力も強いので、スポーツ界が変わると日本社会も変わると思います。スポーツ界を変えることは日本社会にとって大きな原動力になるはず。

LGBTQの啓蒙活動に関わってきましたが、その経験がLGBTQだけでなく、もっと広く、多様性やダイバーシティ&インクルージョンをスポーツの力を通してもっと広めて行ければと考えています。

 

──日本の企業の課題をどう、感じているのでしょうか?

 

杉山文野 ひとつは、新卒一括採用をして終身雇用というイメージがまだ企業には残っていることです。

確かに、同じような価値観の人達が集まって一気に物事を進めるというのは、経済が成長して行く過程では必要な時期はあったと思います。「24時間働けますか」と言われ、女性は家事と育児をし、男性は外で仕事をする。それで効率は良かった。ただ、効率を求めすぎた。経済が発展して平和ボケと言われるほど平和になったことは素晴らしい側面だと思う一方で経済成長の歪みとして「人権」と「環境」が置き去りになってしまった。

今は、コロナ禍の影響もあって、社会は次のステージに行かざるを得なくなっています。いろんなシステムや制度を変えるタイミングに差し掛かっています。そこでは「人権」や「環境」を組み込んだルール作りが必要になってくると感じています。

実は、企業にとって多様性は効率化と相性が悪いんです。同じサイズの箱が積み重なる方が綺麗に収納できて効率的ですよね。しかし、それでは世界で勝っていけない。多様なものを取り入れないといけない。

当然、そこには今までと違うストレスや負荷がかかると思います。それでも、多様性を重視すると必ずイノベーションが生まれます。新しいアイデアは違うものと違うものが混ざって生まれる。同じものが同じようにあっても新しいアイデアは生まれません。

私は女性として生きていた時代があり、今は男性として生きています。この2つを経験したからこそ見える世界もあります。また、私はフェンシングの経験しかなければ多分、フェンシング協会に関わらなかったと思います。フェンシングをやっていた経験があって、そこから離れて社会活動に関わった。スポーツと社会活動の両方を経験したからこそ、自分なりにスポーツ界に貢献できることがあるのではないかと思えるようになりました。

ひとつのことにこだわらず、いろんな人材が交わって行く。皆で多様な価値観をシェアしながらアイデアを生み出して行くことをしないと、このグローバルの時代に生き残れないと思います。

 

多様化する社会をサバイブするスキル

 

──どのような講演会が多いのですか?

 

杉山文野 依頼として多いのが、「多様性が大事なのは分かるけれど、何からやったらいいのか分からないから教えて欲しい」というものです。

また、おじさん批判をするわけではないのですが、年齢の高い男性ほど、多様な価値観に対してアレルギーがあるとデータにもあります。例えば同性婚を取ってみても反対されているのは年配の特に男性です。

それは何かひとつのことに取り組んで来て、多様な価値観に触れるとか、多様な価値観の人達と何かを一緒にやる、という経験がこれまでほとんどないままきてしまったことが原因だと思います。そして、そういう人達が今の社会の意思決定層の大半を占めている。現場レベルでは「これは絶対にやった方がいい」と言っても「上がうんとは言わない」という問題が起きています。なので、まずは当事者の話を聞き、多様な意見や価値観に触れるところからスタートすると良いんじゃないかと思います。

私の売りは楽しく話すことです。聞く人は「話が難しいんじゃないか」「責められるんじゃないか」とおびえていますが(苦笑)、楽しく聞いてもらうことを大切にしています。

 

──批判されるのではないかと不安に思う人は多いと思います。

 

杉山文野 そんな心配は必要なくて、「そういう考え方もあるんだな」と自分との違いに気づき、その違いを楽しみながら聞いてほしい。そもそも心理的安全性を言っている私が、聞いている方の心理的安全性を圧迫するのは良いわけはありません。今までがダメという話ではなくて、これからさらに良くするための提案をさせてもらっています。

 

──どういうところから講演の依頼が来るのですか?

 

 

杉山文野 私が講演を始めた15年前位は学校と自治体が中心で、たまに企業があるくらい。それが今では逆転して8割は企業で、2割が自治体と学

校です。

その背景には、2020年6月に先行して大企業を対象として施行された「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が、2022年4月からは中小企業も含めて全面施行され、パワハラ対策が義務化されたことがあります。

そのパワハラ防止法ではSOGIハラも対象になります。もう、企業にとって避けては通れないところまで来ています。まずは正しい知識を身に付けることが大切です。そのため、「最低限の知識が知れる研修をやって欲しい」と幅広い企業から声が掛かります。

※SOGI(ソジ)とは、Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字のことで、性的指向(好きになる性)/性自認(自分の心の性)のことをいう。

 

──パワハラ防止法などもあり、個人はどう対処すればよいのでしょうか?

 

杉山文野 私はトランスジェンダーの当事者ではありますが、ジェンダーとしては男性なので、40歳を超えた単なる”おじさん”という側面もあります。僕自身も常に「若い子に対してパワハラしていないか」とか「セクハラしていないか」とビクビクしていたりもします(笑)。

私も間違えることもありますし、怒られることもあります。そんなときは素直に「ごめん」と謝ります。だから、過度に恐れすぎる必要はないと思います。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)がいけないのではなく、アンコンシャス・バイアスがないと思うのがいけない。常にアンコンシャス・バイアスは存在すると思い、自分の中にアンコンシャス・バイアスはないかと確認することです。相手を否定しないこと。それでも誰も傷つけてはいないとは言い切れません。けれども、そういう視点を持ってコミュニケーションすることが大事です。

自分に自信をもつことも大事ですが、過度に「自分の意見が正しい」とか、「今までこれでやって来た」とか、これまでの成功体験にあぐらをかかずに謙虚に学び続ける姿勢が大事です。「これまではこうだったけど、これからはもっと改善できるところがあるかもしれない」と考え、自分をアップデートし続けることです。脳みそのストレッチというか、多様なものに対する想像力が大切です。

 

──具体的には?

 

杉山文野 例えば男性に「彼女はいますか?」とは言わず「パートナーはいますか?」と言う。「どんな異性がタイプなんですか?」ではなく、「どんな方がタイプなんですか?」でもいいと思います。これまでは異性愛者しかいないという大前提で行ってきた会話に、同性愛者の人も身近に存在しているという知識が加われば、自ずと言葉遣いも変わってくる。ジェンダーやセクシュアリティを限定しない言い方に変えればいいんです。それが脳みそのストレッチです。

他にも目に見える障がいもあれば目に見えない障がいもあります。宗教やルーツ。何かあるかもしれないということを常に意識しながらコミュニケーションを取ることが、多様化する社会をサバイブするスキルだと思います。

 

皆の課題は自分の課題。課題は皆で解決する

 

──講演では、どのようなお話を求められますか?

 

杉山文野 ダイバーシティ&インクルージョンやSDGsについてですね。私もLGBTQのことだけを分かってくれというつもりは全くなくて、多様性の話をする切り口としてLGBTQの話をするくらいです。

多様性の例えとしてLGBTQや高齢者、障がい者、外国人が挙げられますが、誰だって歳を取れば高齢者になります。事故にあって車椅子生活になるかもしれない。海外に行けば外国人になります。LGBTQの当事者でなくとも、産まれてくる子どもや大切な人がそうかもしれない。多様性は誰かの話ではなく、全て自分の話です。皆の課題は自分の課題。課題は皆で解決した方が、安心して暮らせます。

活動に関わる、自分事にするというのは、明日の自分のためであり、明日の大切な誰かのためです。

LGBTQのことだけを考えればいいというのではなく、皆の課題だから皆で解決して行く。そんな気付きや切っ掛けを講演では皆とシェアしたいと考えています。

企業では「人権」の話がベースにありつつも、社内にいるであろうLGBTQの当事者にとって働きやすい職場環境をどう作るのか?企業のユーザーにいるであろうLGBTQの方たちにとっての商品開発、サービスの向上はどうすれば良いのか? をお話しています。

 

──もはや、他人事ではありませんよね。

 

杉山文野 それと、リスクマネジメントの観点。いろんな炎上発言や訴訟が起きています。10年前だったら「知らなかった」で通ったかもしれないけれど、今は知らなかったでは済まされない時代です。いろんな情報が出回っているので、勉強不足としか言いようがない。

多様化する社会、ではなく日本も既に多様な社会を生きています。コミュニケーションスキルのひとつとして、様々なバックグラウンドを持つ人達がいるということに対して、想像力を鍛えることが「多様性の時代」を生きるためには必要なんじゃないか、というお話もしています。

 

──企業にとっては必須の知識が知れるわけですね。

 

杉山文野 また、私は2児の父親でもあるのですが、そのことを公表したら、「家族の話を聞きたい」というリクエストが多くありました。

誰もが家族と関りを持たずに育つということはまずありません。その関係性が悪いか良いかは別にして。誰もが関わるトピックスです。

私と子どもは血のつながりはなくて、そこに不安がなかったわけではありませんが、いざ、子育てをしてみると血のつながりなんてどうでもいいちっぽけなことだと分かります。毎日、充実した日々を過ごしています。

そんな話をすると、LGBTQの方から「私たちも子育てをしています」と教えてくれたり、妊活をしたけれど、上手く行かなったという方から、「血のつながりにこだわらず、幅広く考えてもいいんだと思ったら気持ちが楽になりました」という声を聞くこともあります。

今の社会は、個人のライフスタイルが多様化しているのだから、家族のあり方も必然的に多様化しています。ただ、現実のルールとリアルがちぐはぐになっているのが問題です。

 

──と、いうと?

 

杉山文野 ルールというのは制度や法律です。私自身、日本の法律上、戸籍は女性です。そのルールが現実の実質生活に追いついていない。それが生きづらさを生み出している大きなポイントだと思います。

ただし、これは伝統的な家族観の否定ではありません。伝統的な家族観もいいし、そうでない家族もいいよね、という話です。それだけじゃない選択肢を広げて行くべきです。

 

──よく分かります。

 

杉山文野 それと、リーダーシップという観点も皆さんとシェアしたいと考えています。自分で「リーダーだ」というのは何か気恥ずかしいし、そうでもないと思いつつですが、リーダーシップのあり方が変わって来ていることを感じます。

以前は圧倒的に強い「俺についてこい」というリーダーシップを持つことが良しとされていましたが、今の多様化する社会においてのリーダーシップは、強すぎるリーダーは「付いていけない」と敬遠されます。

私は、「東京レインボープライド」という大きな社会活動に共同代表として関わっていますが、決して私が凄いということはなく、ただ、いろんな価値観や考え方のある人達と話をしてきて、落としどころを見つけて、一緒にやりましょうということを得意としてきました。こんな経験も多様化する社会においてのリーダーシップ論として、皆さんにシェアできることがあるんじゃないかなと思っています。

 

──貴重なお話し、ありがとうございました。

 

 

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