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渋谷真子 講演会講師インタビュー

YouTube『現代のもののけ姫Maco』を運営する車いすユーチューバーの渋谷真子さん(31)は、SNSを巧みに使うインフルエンサーの顔も持つ。茅葺職人としてスタートした26歳の時に3mの足場から落下し脊髄を損傷した。転落した瞬間、「これって、やっちゃった系?」と考え、わずかに動く右手で自撮りを始めたという猛者。その骨太の精神でこれまで車いすユーザーには無理と言われていたことを次々乗り越え、どうすればクリアできるかをSNSで発信続けている。今回は「講演依頼のSpeakers.jp」に講師として新しく登録していただいた渋谷真子さんは、車いすユーザーが一人でも多く、介助者なしに街に出られるようにするのが使命と語る。

(text:吉井妙子、photo:遠藤貴也)

ユニバーサルデザインって、健常者の目で設計されている

――排泄障害、生理、性などのデリケートな部分を含め、車いすユーザーの日常をタブーなしで赤裸々に発信しているYouTubeが注目を集めています。

 

渋谷真子 登録者は12万人ぐらい。そのほかXやInstagramなどでもほぼ毎日、発信しています。私は手漕ぎ(自走式)車いすで、一人でどこにでも出かけますが、そのたびに不便だな、これは使い勝手が良かった、あるいはこんな気配りが嬉しかったなどと、日常生活で気が付いた細々したことも発信しています。

 

――渋谷さんのSNSには健常者として気づかされることがたくさんあるのですが、道路や電車のホームの障碍者用の点字ブロックが、実は車いすユーザーには難敵になるとは意外でした。

 

渋谷真子 車いすユーザーにも障害度が色々あるのですが、脊髄損傷の私は鳩尾(みぞおち)から下の感覚が全くないので体幹もないんです。だから、車いすが少しでもガタンと揺れると、前につんのめってしまうんですよ。私も健常者の頃は気にも留めていませんでしたが、舗装されている道路でも、意外と凸凹が多いんです。マンホールの蓋が少し傾いていたり、道に敷詰められたレンガの一部が壊れていたり、あるいは側溝の段差とか。段差が2~3㎝以上あると車いすが前に進めなかったり、車輪が取られたりしてしまいます。だから道路を通るときは斜め前方に細心の注意を払って進んでいますし、点字ブロックを乗り越える時は、全神経を集中させて渡っています。特に雨の日は車輪が滑って怖いですね。
ただ、点字ブロックは私たちに難敵であっても、視覚障碍者には命綱。ただ、あのブロックの高さは本当に適正なのか、少し低くしてしまうと危険なのかなど、実際に視覚障碍者の人と話し合ったりしています。
他の障碍者たちと繋がりを持ってみると、インフラのユニバーサルデザインって、やはり健常者の目で設計されていることに気が付きます。道路や公共の乗り物、多目的トイレなどの社会インフラはすぐに変えようがないですけど、再整備するときなどは私たちの意見も参考にして欲しいですね。他の障碍者の方々とも交流することで、私自身も気づかされることがたくさんあります。

 

――YouTubeに日本語と英語のテロップを入れているのは、他の障碍者への配慮ですか。

 

渋谷真子 日本語は聴覚障碍者の方にも見ていただきたくて。動画は多くの情報を伝えられますが、その分、聴覚障碍者にはネックになる。それでフルテロップにしたんです。英語のテロップは、海外の人たちにも日本の状況を伝えたいと考えているからです。今、インバウンドがだいぶ増えてきましたが、福祉国家といわれるアメリカやスウェーデン、デンマーク、ニュージーランドなどバリアフリー先進国から来日する車いすユーザーの人たちは、宿泊や移動に戸惑うことがあると思います。予め、日本の状況を知っていればストレスも少なく観光が楽しめると思います。
もう一つは、私が車いすになった時、これまでと同じような日常を送ろうと思っていたけど、そのための情報がほとんどなかった。脊髄損傷患者のその後をSNSで調べてみると、事故後の苦しみや車いすになった嘆きか、もしくは学術的な研究論文などだけでした。
私は車いすになっても友達と遊びたいし、旅行にも行きたいし、可能ならセックスもしたい。でもそのための情報がほとんどなかった。車いすになるとこんなに行動が狭められてしまうのかと悶々としている時に、たまたま海外の車いす女子を検索してみたんです。すると、車いすで健常者と変わらない生活をしている女性がバンバン出てきた。皆さん綺麗におしゃれをし、パーティなども楽しんでいる。彼女たちのSNSに私は救われました。そんな経験があったので、海外の誰かが私のSNSを見て、前を向いてくれたらいいなと願って、英語のテロップも付けました。

 

健常者と障碍者の目に見えない「壁」を取り払いたい

――YouTubeのタイトル『現代のもののけ姫Maco』 も海外を意識したんですか。

 

渋谷真子 少し(笑)。宮崎駿監督のアニメ映画『もののけ姫』は海外でも大ヒットしましたし、もののけ姫の前に「現代」を付けたのは、検索エンジン対策でもあるんです。「現代」「もののけ姫」と検索すると私のYouTubeに辿り着く。スタジオジブリのファンが間違って、私のYouTubeを見てくれるかもしれないじゃないですか(笑)
でも本当の理由は違います。私が生まれ育った山形県鶴岡市田麦俣(たむぎまた)地区は美しい自然に囲まれた里山。『もののけ姫』の森とよく似ているのでタイトルにしました。
月山の麓にある私が生まれ育った田麦俣には、茅葺で「兜造り」といわれる多層民家が残されています。世界遺産の白川郷の造りに似て、私の生家も江戸後期に造られたものです。父は茅葺職人。でも、茅葺屋根の家が減少し、職人の高齢化も進み、今、山形県で茅葺職人は父一人になってしまいました。だから、学生の頃からいずれは私が父の仕事を継ごうと考えていたけど、独り立ちするには社会経験も必要と、高校卒業後に地元企業に就職し、26歳の時に退職して父に弟子入りしたんです。同時に、マタギとして生きるために狩猟免許も取得しました。里山で暮らすには、マタギもやらないと生活できないんです。

 

 

 

 

――事故に遭われたのはその直後ですか。

 

渋谷真子 父に弟子入りして3か月後の2018年7月でした。県内の茅葺屋根の修理中に、高さ3mの足場から転落し、庭池の石に背中をしこたまぶつけてしまったんです。下半身は池に沈んでいるのに、感覚が全くない。すぐに全身がジンジン痺れ出したので、咄嗟に思い浮かんだのが「これって、やっちゃった系?」って。
テレビの医療番組などで、事故に遭い障碍者になってしまった人のドキュメンタリーを見たことがあったので、私もそうなるかもしれないと咄嗟に思い浮かびました。それなら記録を残しておかなければ、と父が救急車を呼んでいる間に、かろうじて動いた手で自撮りを始めました。

 

――普通は事故に遭うとパニックになるか痛みで悶絶したりするものですが、自撮りですか!なぜ、そんな冷静でいられたのですか。

 

渋谷真子 多くの人に質問されますが、自分でもわかりません(笑)。ただ、私の育った環境が影響しているのかも。小学校は分校だったから、何でも一人で決め児童会長もやったし、中学では生徒会長。高校ではパラパラにはまり地区の代表をやりつつ、イベントも主催していました。つまりええかっこしいなんですよ。だから、事故になった時も、取り乱すのがカッコ悪いと咄嗟に思ったんでしょうね。
ただ、手術室に向かう時父が「ごめんな、ごめんな」と泣いていて、「お父さんのせいじゃないから!」と言いつつも「父は一生背負っていくんだろうな」と思った瞬間は、さすがに私も涙腺が切れました。
一般病棟に移った時、医師に「脊髄損傷で車いすになります」と宣言されましたけど、覚悟はできていたので淡々と聞いていました。
ただ、さっきもお話したように車いすで、これまでと同じような日常生活を送るための情報がほとんどなかったのは堪えましたね。でも、海外の車いす女子からヒントを貰い、だったら私が車いすユーザー、あるいは障碍者のために、これまで障碍者には無理と言われていたことにどんどんチャレンジし、その可能性を示して行こうと考え、YouTubeやTwitter(現X)、InstagramなどのSNSを使って発信し始めたんです。

 

 

――サーフィン、乗馬、バイク、海釣り、川下り、スノーケリング、クレー射撃、やり投げ、フラダンスなどアクティブなスポーツを楽しんでいる動画にはびっくりしました。

 

渋谷真子 車いすユーザーには無理、と思われていたスポーツかもしれませんが、やってみればみな出来るんです。ただ、周りに協力者が必要です。例えば乗馬をやりたいと思ったら、まず乗馬クラブに可能かと聞く。ほとんど「無理です」と答えられますが、「なぜ、無理なのですか」と食い下がる。色々理由を言われたら、今度は私からそれをクリアする方法を提示。そうやってやり取りしているうちに、「じゃあ、やってみますか」と。ほとんどのスポーツはそうやって体験しました。下半身不随はハンディになるというより、相互のコミュニケーションが問題だと私は思います。今まだ、健常者にも障碍者にも目に見えない気配りや遠慮があって、障碍者の行動を狭めています。
私はそんな健常者と障碍者の目に見えない「壁」を取り払いたい。
例えばギプスをした人を見たら「どうしたの?」と気軽に声をかけるじゃないですか。それと同じで、車いすユーザーの人を見たら「どんな事故だったの?」と聞いてもらっても一向にかまわない。それをきっかけにコミュニケーションが生まれますし、私たちが理解してもらえる。

 

――排泄障害を赤裸々に語った動画は436万回再生されました。健常者も見ることを意識したんですか。

 

渋谷真子 もちろんです。むしろ健常者の人たちに排泄障害について知って欲しかった。お腹の具合が悪いと知らない間に便が漏れたり、尿が尿パットから漏れてしまったり、悲しい状況になってしまうことが間々あります。正直、私は歩けなくなったことより、人前で漏らしてしまうことの方がずっと辛い。それでも障害を理解している人から見られるのと、理解の無い人から見られるのとでは大分違います。
例えば、看護師さんや介護士さんの前で漏らしても比較的ショックが少ないのは、障害があって漏らすのは仕方ないと分かってもらえているから。排泄障害の詳細を見せることで、より多くの人に障害の実態を知ってもらい、街中で失敗しても、気にならない社会になればいいな、って思います。排泄障害は障碍者の間でもこれまであまりに語られてこなかったのか、「排泄はどうしていますか」と言うDMが何度も届きました。
確かに私も入院中、看護師さんから尿や便の処理法を教わったけど、ただイラストを渡され「このようにやってください」と。それにはトイレでM字開脚し、鏡を見ながらカテーテルを入れる図が描いてあるんですけど、実際はトイレでM字開脚なんてできないし、鏡もない。そもそも看護師さんたちも自己導尿なんてしたことがないから、きちんと教えるのは難しいんです。
私は鳩尾(みぞおち)から下に全く感覚がないので、尿や便が溜まっても分かりません。意識的に出すことも出来ません。尿は3時間おきに尿道口からカテーテルを入れて出し、便は朝食の後に下りてくるので、ゴム手袋をしてワセリンを塗った指を入れて掻き出します。

 

車いすユーザーの「ファーストペンギン」になりたい

――社会インフラの提案や車いす用のグッズの使い心地などを発信しているうちに、企業などから開発のアドバイスなどを求められることもあるそうですね。

 

渋谷真子 トヨタさんとは身体障碍者用乗用車や階段も登れる車いすの開発に関わらせていただいています。また医療系大学の要請で歩行補助ロボットのテストパイロットをやったり、再生医療の分野では幹細胞治療のモニターもやっています。車いすユーザーの未来に繋がることであれば、どんなことでも協力していきたい。
今日本で車いすユーザーは200万人いると言われ、700万人と言われる団塊の世代が将来歩行困難になったら、どれだけ車いすユーザーが増えるのか想像もつきません。介護施設では車いすの高齢者が、外に出たいけれど忙しいスタッフに頼むのは気が引けるので外出できないと聞きます。
車いすで一人で外出できるような世の中になれば、車いすユーザーのQOL(生活の質)もだいぶ改善するように思います。だから今、私たち障碍者はどんな些細なことでも講演会で話したり、SNSで発信していくことが大切なのです。

 

 

 

――最後に、講演会ではどのようなお話をしていきたいですか。

 

渋谷真子 まず学校ですね。小学校や中学校で先生が「障碍者の人をサポートしましょう」と教えても、実際に障碍者がどのようなことで困り、どんなシーンでサポートすればいいのか、具体的には分からない。だから街で障碍者に会っても手助けしていいのか、何をどうすればいいのか分からない、という表情の人をよく見かけます。そして結果的に見て見ぬふりをする。そんな心の葛藤を無くすためには、子どものころから実際に障碍者に出会い、どんなことに困っているか、どういう場面で助けて欲しいか、私たちが講演会に出向き、伝える必要があると思います。また、大学では研究室とジョイントし、ダイバーシティのあるべき姿を追求してみたい。企業向けには、ユニバーサル社会の在り方を障碍者の視点から講演していきたいですし、インフルエンサーとしてSNSの活用法などについても講演できますので参考にしていただければと思います。
そして私の人生についてのお話もしていきたいですね。車いすになったのに、健常者の時よりアクティブになったと言われますし、車いすユーザーの「ファーストペンギン」になりたいと考えている私は、周りから「無理」と言われることをことごとくクリアしてきました。「道は挑戦した者だけに開かれる」ということを実践してきた自負があります。
児童委員、学級委員、ギャル、パラパラサークル会長、マタギ、茅葺職人、車いすユーザーとメリハリのある人生を歩んできたことも、今の私を作っています。そういったことも講演会でお話できていければいいなと思っています。

 

――貴重なお話をどうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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