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学校の9割は、杞憂でできている

乙武洋匡写真-新作『だいじょうぶ3組』は、教員として経験した実話をベースに書かれたそうですが、「赤尾先生」と子どもたちのやり取りが面白く、また胸を打ちます。教員生活を通じて、もっとも大切にしていたことは?

乙武 僕が教育現場で一番に感じたのは、「学校の9割は杞憂でできている」ということです。例えば、5年生の理科の授業でインゲン豆を育てて、数ヵ月後に収穫を迎えました。僕は子どもたちと一緒に食べて、「収穫祭」を楽しもうと考えていたのですが、結局は「子どもが給食以外の物を食べて、お腹を壊したら一大事だ」ということで、中止になってしまったんです。もっとも、保護者の目も厳しくなる中で、学校が臆病になってしまうのも仕方がないのですが、これでは子どもが様々な体験をする機会が奪われてしまう。
そこで大事なのは、保護者と学校側の信頼関係です。例えば、先生と保護者の信頼関係がしっかりしていないと、逆上がりを教えるために女子子どものお尻を押しただけで、「セクハラだ!」という騒ぎになりかねない(笑)。子どもたちとしっかり向き合って指導するためには、保護者の方に信頼してもらうために、積極的に動かなければならないんです。

-保護者の信頼を勝ち取るために、苦労をしている先生も多そうです。

乙武 僕の場合は――小渕恵三元総理の“ブッチホン”をもじって、“オトホン”と呼んでいたのですが、保護者の方に毎日電話をかけるようにしていました。普通、担任から子どもの家に電話が行くときは、何か問題を起こしたときですが、僕は小さいことでも、必ず子どもを褒めるようにしたんです。「○○ちゃんは逆上がりができなかったけれど、本当に一生懸命練習していたんですよ」「○○くんは引っ込み思案なところがありますが、今日は委員に立候補してくれたんです」って。頑張った結果を伝えるだけなら、通知表で十分。結果にならない頑張りこそ、親が知りたいことだと思うんです。
もっとも、最初のうちはなかなか信じてもらえずに、「それで、うちの子が何かしたんでしょうか……」なんて言われました(笑)。でも、数ヶ月が過ぎるとご理解いただいて、僕からの電話を楽しみにしていただけるようになりましたね。

みんなちがって、みんないい

-そうした体験を、ドキュメンタリーではなく小説として書き上げた理由は?

乙武 エピソードの大半は実際に起きたことですが、実際には理想通りの結果にならないこともあって。事実をただ書いていくよりも、楽しく読んでもらいながら、明るい気持ちでメッセージを受け取ってもらいたいと考えたんです。また、教育に特化した本になってしまうと、教育に関心のある方にしか読んでいただけないかもしれない。僕が教員生活で学び、みなさんに伝えたいと思ったのは、決して教育現場に限ったことではなく、人と人が関わる上での本質的なことです。課題に向き合ったときの心の持ちようや、他人と自分の差異を認めることの大切さは、一般社会を考える上でも重要なテーマですから。
また、「だいじょうぶ」という言葉は、子どもたちへのメッセージでもあり、保護者の方に対するメッセージでもあります。子どもたちが思い切ったボールを投げるためには、キャッチャーになる先生や親が、「どんなボールが来ても受け止めてやるぞ!」という気持ちでいなければいけない。2児の父親としても、教師としても、子どもの欠点を探すのではなく、何かにつまづいたときに「だいじょうぶ、君にはこんな素晴らしいところがあるよ」と言ってあげられる大人でありたいと思います。

-乙武さんのメッセージを受け取って、生の声を聞きたいと思う人も多いと思います。講演会では、どんなことを伝えたいと考えていますか?

乙武 僕が一貫して訴えてきた「みんなちがって、みんないい」ということです。僕が担当したクラスの子どもたちは、それぞれに大きな魅力を持っていました。けれど、保護者の方は子どもの良いところよりも、ついつい足りないところばかりを見てしまうんですよね。大人だって完璧じゃないのに、子どもが何でもできるわけがありません。ジグソーパズルのピースのように、どの子どもにも出っ張っているところがあれば、へこんでいるところがある。仲間とそれを補い合いながら、最後に一枚のきれいな絵になればいいんです。これは、地域の集まりだって、会社だって、国と国だって同じことですよね。
具体的な内容としては、90分の講演会で僕が話すのは60分くらい。できるだけみなさんの質問に答えたいので、質疑応答の時間を長く取るようにしています。また、マジメな話ばかりでは退屈してしまうと思いますので、教員生活での笑えるエピソードをお話ししたり、時には車いすから降りて、会場を走り回ったりもしていますね(笑)。明るく賑やかに、メッセージを伝えられたらなって。

乙武洋匡写真-最後に、今後の目標を聞かせてください。

乙武 僕は「高いところから物申す!」というタイプではないので、いずれは何らかの形で現場に戻りたいとも考えています。いまは友人と、「保育園が作れたらいいね」という話をしていますが、当面は本を書かせていただいたり、全国に講演に行かせていただく中で、やっぱり「みんなちがって、みんないい」というメッセージを伝えていきたいですね。

乙武洋匡写真

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・ 作家

■講師略歴
大学在学中、自身の経験をユーモラスに綴った『五体不満』(講談社)が多くの人々の共感を呼び、500万部を超す大ベストセラーに。’99年3月からの1年間、TBS系『ニュースの森』でサブキャスターを務め、いじめ問題やバリアフリーについて取材、レポートした。

大学卒業後は、「スポーツの素晴らしさを伝える仕事がしたい」との想いから、『Number』(文藝春秋)連載を皮切りに執筆活動を開始。スポーツライ ターとして、シドニー五輪やアテネ五輪、またサッカー日韓共催W杯など、数々の大会を現地で取材した。特にスポーツ選手の人物を深く掘り下げる眼に定評が ある。

子どもの頃のエピソードをもとに書いた絵本『プレゼント』(中央法規出版)、翻訳絵本『かっくん』(講談社)、ドラえもんの絵に詩を載せた絵本『とっても 大好きドラえもん』(小学館)、平和をモチーフにした絵本『Flowers』(マガジンハウス)を手がけるなど、子どもたちへのメッセージを発信していく ことも活動の大きな柱としている。

’05年4月からは、東京都新宿区教育委員会の非常勤職員「子どもの生き方パートナー」として教育活動をスタートさせる傍ら、明星大学の通信課程に学び、’07年2月に小学校教諭二種免許状を取得。
同年4月から’10年3月まで杉並区立杉並第四小学校教諭として勤務し、3・4年生を担任した。現在は、メディアを通して教育現場で得た経験を発信していく活動を柱としている。

■講演タイトル
・「みんなちがって、みんないい」(人権)
・「子どもたちのためにできること」(教育)
・「チャレンジ精神を忘れずに」(生き方)

     
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