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AI時代に求められる自分の言葉
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AI依存がもたらす言葉の不安
生成AIが全盛期となった今、この便利な発明によって生徒たちの思考力と表現力の低下を懸念する教育者たちが急増しています。学校で課題を出しても、どれも似たり寄ったり。彼らのプレゼンは資料を読み上げるだけで、一向に上手くなりません。すでに、AIに書いてもらった原稿がなければ話せなくなっています。
長い歴史の中で人間が習得した、考えを言葉にする力、つまり言語化力を一瞬のうちに奪い去ったAIは、教育における大きな課題を突きつけています。今、教育業界に問われるのは、自分の言葉で語れる能力の教え方です。今回はこの「自分の言葉」に焦点を当てて、私が講演の際に話す話題を説明します。

本来の自分の言葉とは
書かれた原稿を読んでいる誰かの姿を見て、人は「自分の言葉で話していない」と揶揄します。プレゼンテーションでも結婚式のスピーチでも、確かに原稿を読む人は多数派です。ただ、原稿を見ないのであればそれが自分の言葉なのでしょうか?自分の言葉、を文字通り定義するのであれば、誰も使ったことのない独自の表現となるはずですが、世間はどうやらそうは考えないようです。これはあまりにも多くの日本人が原稿を読む姿を当然と考えているからかもしれません。
同様に、原稿を読んでいないとしても、誰でも使う言葉で話したのであれば、そこに自分の言葉の要素はないはずです。「やばい、エグい、すごい」の連発では知性が感じられません。同様に、「寄り添う、癒し」に代表される、頻繁に耳にする表現が並んでいるのであれば、そこに独自性はありません。それは文末にも現れます。「〜かなというふうに思います」で発言が毎回続くと、冗長な響きが出来上がりますし、思っているだけですので自信が感じられません。真の意味で自分の言葉で話をしようとするなら、そこは自分の思考を独自の表現に載せて発信する力が欠かせません。

自分らしい言葉を作る方法
それを可能にするのは広い語彙と分かりやすい展開、そして賢い表現です。これだけだったら当たり前と思うかもしれませんね。でも、私が提案するのは、語彙の拡大と独自性の創造を同時に叶える便利な手法なのです。それを可能にする考え方を三つご紹介します。私が論文を執筆する際に常に気をつけている秘訣です。実践したら、きっと言葉の知られざる世界を堪能できますよ。
最初にご紹介するのは「定義」です。定義とは辞書の役割ですね。辞書にはいろんな単語の説明が書かれています。それを自分でやってみたら、面白いことが起こるんです。ただ、そこにはルールがあります。それが「最後は名詞で終え、5つのNGワード(状況、状態、もの、こと、様子)を使わない」です。なぜならこれらを日本人が使いすぎだからです。
例えば「ギリギリ」を定義したらどうでしょう?「あと少しで終わる状態」だったらNGワードです。でも「限界の一歩手前」と定義したらどうでしょう。気持ちいいですね。これが言い換えに役立つのです。何度も「ギリギリ」を使っていたら、語彙の少なさを露呈します。でも、瞬時に別の表現を探せるようになれば、聞いている人が飽きることのない話ができるようになるのです。もちろんそれは書いていても同じです。ずっと新鮮な響きが続きますので、最後まで楽しめますよね。しかも独自の言い換えだから、これまで誰も使ったことがない表現が完成します。これこそ自分の言葉です。

次にお届けする独自の表現を作る方法は隠喩です。隠喩とは比喩表現の一つです。ある名詞の象徴を考えると、上手い例えが完成しますよ。例えばメガネを隠喩で表すとしましょう。まずメガネが持っている象徴を探します。メガネをかけている人って賢そうですよね。だったら「知性の演出」なんてどうでしょうか。これもまた2回目以降の言い換えに使えるのです。「この知性の演出を手にしたなら、あなたも…」なんて使い方が可能です。こうした隠喩は、言葉の美しさと巧みさを同時に伝えることができます。やっていることは大喜利に近いかもしれませんが、これをプレゼンテーションの中に含めたらどれだけ楽しいでしょうか。ただ、この二つの練習は、最初のうちは頭を使います。つい楽をして便利な単語を使おうとする自分を制御する必要があるからです。でも、そこに語彙を増やす秘密があるのですね。
最後にお伝えしたい技法は、抽象名詞です。抽象名詞とは動詞を名詞にするだけです。本を読むは「読書」ですし、走るは「走行」です。もしこれが自在に使えるようになったら話し方が大きく変わります。例えば「私の趣味は食べることと寝ることです。」が「私の趣味は食の探訪と睡眠の質の追求です。」に変化します。抽象名詞を使えるようになると知性と共にメッセージを伝えることができるようになります。これもまた他の人が使わない表現です。
この三つだけで、言葉は変わります。だからこうした作文の練習が子供達の自発的、かつ創造的な言葉の発達に直結するのです。いくらAIが便利になっても、対面で話す機会はなくなりません。AIがないと何もできないのは人間の才能があまりにも勿体無い。
こうした言葉の体操は思考を刺激します。言語と思考は密接に関連しており、単純なことしか言えないのであれば、単純にしか考えられません。理由を聞いて「なんとなく」しか答えられないのは、それ以上考える言葉を使っていないからです。だからこそ、普段から自分の言葉で、しかも人とは違う表現を探す作業が求められるのです。
終わりに
アメリカではこうした学びを中学校から深めており、論理的に展開し、言葉の飾り付けを施す作文を徹底します。2400年の歴史がある修辞学という名の学問です。それはプレゼンテーション原稿においても同じです。プレゼンテーションの際は、その原稿を完全に覚えます。だから海外では、原稿を持って登壇する人は皆無ですね。
日本ではあまり学べないこの修辞学には、生成AIが世界を席巻しつつある今の時代に、人間らしさを取り戻し、維持するヒントが多く含まれます。魅力あふれる話をできる人材になるために、言語は違ったとしても、西洋の学びを教育に取り入れると、新しい世界が見えてきます。それこそが自分の言葉で話せる若者を育てるのに必要な教育なのです。

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カンザス⼤学修⼠。⻄南学院⼤学博⼠。専⾨はコミュニケーション学。関東学院⼤学講師、中村学園⼤学准教授を経てコミュニケーションスキル協会(CSA)を設⽴。同協会代表理事。講演ではAIに負けない⼈間らしい⾔葉の秘密を惜しげもなく披露している。
AIがここまで身近になった今、「それっぽい言葉」が誰でも簡単に手に入る時代になりました。
その一方で、自分の考えを自分の言葉で伝えられる人は、むしろ少なくなっていると思いませんか?
本コラムでご紹介した「定義・隠喩・抽象化」は、思考と表現を同時に鍛えるための、すぐに実践できる言葉のトレーニングです。プレゼンテーションや日常のコミュニケーションが変わるだけでなく、新たな気づきや変化のきっかけとしてお役立ていただける内容です。
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