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問題が起きてから動くのではない
―心理学の専門家が伝える、予防としての心理的安全性―
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「なぜもっと早く相談してくれなかったのか」
企業の管理職の方から、私はこの言葉を数えきれないほど聞いてきました。
しかし、この問いの立て方そのものに、大きな見落としがあると私は考えています。

「相談できない」のではなく「相談する前提がない」
多くの現場で語られる心理的安全性は、「安心して発言できる雰囲気」という漠然としたイメージにとどまっています。しかし、心理学の専門家として数多くの企業相談に向き合ってきた実感として、心理的安全性の本質はもっとシンプルです。それは、弱さを見せても、その関係性が壊れないという確信があるかどうかです。
社員が「上司に言えなかった」と話すとき、多くの場合その理由は「怒られると思ったから」ではありません。「言っても状況は変わらないと思ったから」、あるいは「言うことで、自分の評価がさらに悪くなると思ったから」です。
問題が「見える」ようになってからでは、遅い
私が繰り返し伝えているのは、心理的安全性は「問題が起きたときの対応策」ではなく、「問題が深刻化する前に気づくための仕組み」だということです。
企業における休職や離職の多くは、誰かの目に見える形で表面化したときには、すでに当事者の中で長期間にわたって苦しみが蓄積されています。表面化した時点で対応を始めるのは、火が大きく燃え上がってから消火活動を始めるようなものです。
予防的アプローチとは、火種の段階、つまり本人すら「これが問題だ」と自覚していない段階で、小さな変化に気づける関係性と仕組みをつくることです。

「気づく力」は、特別な技術ではない
では、予防的アプローチのために、現場で何ができるのか。
私が講演で必ずお伝えしているのは、次の3つの視点です。
変化に気づく
いつもと違う沈黙、いつもと違う表情の小さな変化に注意を向ける
評価せずに聞く
「それは甘えだ」「気にしすぎだ」といった判断を挟まずに、まず受け止める
一人で抱え込ませない仕組みを持つ
相談先が一つしかない状態を避け、複数の接点をつくっておく
これらは特別なカウンセリング技術ではありません。
日々の関わりの質を少し変えるだけで、誰でも実践できることです。
心理的安全性は、優しさの問題ではなく、設計の問題である
もう一つ強調したいのは、心理的安全性を「優しい人がいれば実現できるもの」として捉えないでほしいということです。
いくら優しい上司が一人いても、その人が異動すれば、安心できる場所は消えてしまいます。本当に機能する心理的安全性とは、特定の個人の人柄に依存するものではなく、組織の中に仕組みとして設計されているものです。誰が相談を受けても同じように受け止められる体制、複数の相談窓口、そして「相談すること自体がネガティブに評価されない」という共通認識、これらを丁寧に積み上げていくことが、予防的アプローチの土台になります。
講演でお伝えしたいこと
私の講演では、心理学の理論だけでなく、企業・組織の現場で得た知見をもとに、問題が深刻化する前に気づき、対応できる組織づくりの視点をお伝えしています。
「問題が起きてから対応するのではなく、未然に防ぐ体制をつくりたい」「安心して声を上げられる組織にしたい」、そうした課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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公認心理師および学校心理士の専門資格を活かし、小・中・高校や大学、専門学校にてスクールカウンセラーとして児童・生徒や保護者の相談業務に従事。「いじめ撲滅委員会」や「いじめ不登校自殺防止コンサルタント会」の代表として、教育現場をはじめとする幅広い対象に向けたカウンセリング、講演活動、アウトリーチ支援を実施。
本コラムで紹介した「予防としての心理的安全性」は、人事・労務担当の方や管理職の方だけでなく、職場の人間関係やチームづくりに悩むすべての方にとっても、気づきの多いテーマではないでしょうか。
なぜ、社員は限界になるまで相談できないのか。優しい上司でいるだけでは、なぜ組織は守れないのか。
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