
日本の地方は今、大きな転換点に立っています。
人口減少、少子高齢化、空き家の増加、商店の減少、公共交通の縮小、医療・福祉を担う人材不足、地域コミュニティの希薄化。これらは、それぞれ別々の問題に見えます。しかし、地域の現場に立っていると、実はすべてがつながっていることに気づきます。
空き家が増えるのは、単に不動産の問題ではありません。人口が減り、地域経済が縮小し、働く場所が少なくなり、若い人が地域を離れていく。その結果として、空き家が生まれます。
観光客を増やせば、それだけで地域が再生するわけでもありません。多くの人が訪れても、地域の商店で買い物をせず、地域の人と交流せず、宿泊施設の中だけで完結してしまえば、地域に残るものは限られます。
私が地域づくりの中で大切にしてきたのは、こうした課題を一つずつ切り離して考えるのではなく、地域全体を一つの社会システムとして捉えることです。
「住みたい地域」と「訪れたい地域」は、本来同じである

私は宮城県蔵王町を中心に、観光、不動産、建築、飲食、農業、医療、福祉など、さまざまな事業に関わってきました。
一見すると全く異なる事業です。
しかし、私たちはこれらを別々の事業として考えているわけではありません。
根底にあるのが「蔵王福祉の森構想」です。
その理念は、とてもシンプルです。
「誰もが安心して暮らせる地域」
「誰もが役割を果たせる地域」
地域づくりというと、観光客を増やす、企業を誘致する、移住者を増やすといった外向きの施策が注目されがちです。
もちろん、それらも重要です。
しかし、地域に暮らしている人が幸せでなければ、その地域が長期的に魅力的な観光地になることは難しいと私は考えています。
高齢者が安心して暮らせること。子どもたちが地域の中で育っていけること。障がいのある方にも役割があること。仕事があり、人と人とのつながりがあり、困った時には支え合えること。
こうした「暮らしの質」こそが、地域の本当の魅力になります。
そこで蔵王では、観光だけでなく、子ども食堂、高齢者の見守り、農福連携、移住支援、二地域居住、地域雇用などを組み合わせながら、地域の生活基盤そのものをつくり直す取り組みを進めています。
観光と福祉を分けない。
産業政策と生活政策を分けない。
「住んで良い地域」と「訪れて良い地域」を分けない。
これが私たちの地域づくりの基本的な考え方です。
空き家を「問題」ではなく、地域の資産として捉える
日本全国には、多くの空き家があります。
行政にとって空き家は、防災、防犯、景観、管理などの面から大きな社会課題です。
しかし、視点を変えると、空き家は地域に残された重要な資産でもあります。
私が注目しているのが、イタリアで生まれた「アルベルゴ・ディフーゾ」という考え方です。
アルベルゴ・ディフーゾでは、地域に点在する既存の建物を活用し、地域全体を一つの宿泊施設のように捉えます。
宿泊する建物だけで完結するのではありません。
朝食は地域の飲食店で食べる。地域の商店で買い物をする。温泉に入る。農業を体験する。地域の人と会話する。
旅行者が「お客様」として地域を消費するのではなく、滞在する間だけでも地域社会の一員になる。
そこに大きな意味があります。
蔵王でも、空き家や別荘など既存の建物を宿泊施設として再生し、地域の飲食、温泉、農業、観光、商業と結びつける分散型の地域づくりを進めてきました。
重要なのは、宿泊施設を増やすことそのものではありません。
空き家を使うことで、新しい人の流れを生み、その人たちが地域を歩き、地域の人と出会い、地域でお金を使う。
そうすることで、これまで「負の資産」と考えられていた空き家が、地域経済を生み出す装置へと変わります。
そして、ここからさらに重要な変化が生まれます。
最初は一泊二日の旅行者だった人が、何度も蔵王を訪れるようになる。地域に知り合いができる。季節ごとに滞在するようになる。やがて二地域居住を始める人もいる。そして中には、本当に移住する人も出てきます。
観光人口から交流人口へ。
交流人口から関係人口へ。
関係人口から二地域居住、そして移住へ。
私は、この連続性こそがこれからの地域政策に重要だと考えています。

これからの地方創生は「人口」ではなく「関係」を増やす
人口減少が進む日本において、すべての自治体が人口を増加させることは現実的ではありません。
だからこそ、「人口を何人増やすか」だけを地域活性化の目標にする時代から、発想を変える必要があります。
その地域に住民票を置いていなくても、何度も訪れてくれる人がいる。
地域の商品を買ってくれる人がいる。
地域の人と交流し、イベントに参加してくれる人がいる。
地域の課題を一緒に考えてくれる企業や大学がある。
二地域居住という形で、年間の一部を地域で暮らす人がいる。
こうした人たちは、定住人口ではなくても地域を支える重要な存在です。
つまり、これからの地域づくりで増やすべきものは、人口だけではありません。
地域と人との「関係」そのものを増やしていくことが必要です。
そして、そのためには観光、移住、福祉、不動産、農業、教育などを縦割りで考えないことが大切です。
私たちガイアグループは、宿泊業だけを行う会社でも、不動産会社だけでもありません。飲食、農業、医療、福祉など、それぞれ異なる領域を一つの理念のもとにつなぎ、社会課題をビジネスの力で解決する「ソーシャルディベロッパー」でありたいと考えています。
地域には、それぞれ異なる資源があります。
海のある地域もあれば、山のある地域もあります。温泉のある地域、歴史的な町並みのある地域、農業が盛んな地域もあります。
大切なのは、他の成功事例をそのままコピーすることではありません。
自分たちの地域に何があり、何が不足していて、誰と誰をつなげれば新しい価値が生まれるのか。
その問いを地域の人たち自身が考え続けることです。
地方創生とは、単に観光客を呼び込むことでも、移住者の数を競うことでもありません。
そこに暮らす人、訪れる人、関わり続ける人が、それぞれの立場で役割を持ち、「この地域に関わっていたい」と思える仕組みをつくること。
私は、その積み重ねの先に、人口減少時代における日本の地方の新しい希望があると考えています。

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【推薦図書】

宮城県蔵王町を拠点に、観光・不動産・建築・飲食・農業・医療・福祉などを展開する株式会社ガイアの代表取締役社長。「アルベルゴ・ディフーゾ」を活用した地域再生や「蔵王福祉の森構想」を推進し、空き家活用・二地域居住・関係人口の創出に取り組む。宮城大学非常勤講師を務め、個人・法人ともに紺綬褒章を受章。
本コラムで紹介した内容は、自治体や地域づくりに携わる方だけでなく、地域に根ざして事業を営む方や、これからの暮らし方を考える方にも、通じるものがある内容だと思います。
地方創生とは何か。人口が減る時代に、地域が本当に増やすべきものとは何か。
講演では、蔵王町での実践をもとに、空き家活用・関係人口・二地域居住を軸とした持続可能な地域づくりについて、分かりやすくお話しいたします。
自治体研修、商工会議所・観光協会の講演会、企業の地域貢献・CSR研修、大学・金融機関のセミナーなどにご活用いただけます。
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