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NO.004 鈴木英司氏-反スパイ条例・国際情勢 ー

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―あなたも狙われている―
世界の潮流に逆行する香港「反スパイ条例」

 

 

 

 

 

 

 

はじめに…

 

全人代開幕直後の3月23日、香港では「国家安全条例法案」がわずか11日間の審議で可決施行された。
条例には「国家反逆」「スパイ活動」 「テロ行為」「外部勢力との結託」を犯罪として処罰する条項が盛り込まれている。

 

習近平主席の「総体的国家安全保障観」がアジアの金融センター香港を覆うことになったのである。
1997年7月イギリスからの香港返還の際、中国は香港の自治と自由経済を保証するため「一国二制度」を約束した。そして社会主義政策を50年間にわたって実施しないことを約束した。しかし この度の「条例」成立によって、「一国二制度」は崩壊したのである。以下はその内容と背景、そしてその基礎となった昨年7月に施行された中国の「スパイ法改正」について考える。

 

 

 

 

「条例」の運用は当局のさじ加減

 

条例は2020年に施行された「香港国家安全法」を補充したものであり、2024年1月要旨が発表された後3月に条例案が議会に提出され、わずか11日の審議で可決され同月23日に施行された。内容は①国家への反逆、扇動②スパイ行為③国家機密の窃取④外国勢力による干渉などを犯罪と規定し、違反者にはスパイ活動罪が適用されることで最高で禁固20年、外国勢力と結託した場合最高で終身刑を科すとしている。特に、中国や香港政府に対する不満をあおる扇動行為も禁止されSNSへの投稿や出版物なども取り締まりの対象となる。当然のこと中国政府に批判的な本を所持しただけでも条例違反となり何年も投獄される可能性もあるという。

 

基本的には何をもって国家機密とするかは当局の判断に委ねられるが、犯罪行為の定義が広く曖昧である。また、ビジネスで知りえた情報でも国家の安全を犯すということで、条例が適用される可能性もあることから、企業活動への影響が懸念される。これには投資銀行などの企業も含まれるほか、外国の団体がかかわる社会活動やビジネス上の学術研究も標的になる恐れがあり、影響が広範囲に及ぶことが懸念されることから、日本のビジネス界などにも大きなリスクとなることは明らかであるが、また外国人が市場調査をしたり、民主派の市民と交流したりするだけで、摘発の対象となる可能性さえ考えられる。

 

併せて外国組織との結託も罪になることから、外国のNGOをはじめ、外国組織への取り締まりの強化、メディアや外国人への規制が一段と強まると併せて様々な形での言論・表現の自由への規制が一段と強まることが予想される。

 

中国共産党政治局常務委員・国務院副総理の丁薛祥は、新条例は「中国の核心的な国益を守り民衆が経済発展にに集中できるようにするものだ」と述べているが、一国二制度の下で、中国本土とは異なる法律が適用される香港で、この条例の施行によって、外国企業の投資が他国に逃げて行ってしまい、香港の独自性がますます失わてしまう。香港が中国の一部となることは明らかであり、むしろ条例施行によって香港における社会経済の「中国化」が総仕上げの段階に入ったといえるのではないだろうか。

 

この度の施行に対してイギリス外務省も4月19日「言論や報道の自由をむしばむことになる」との懸念を表明したが、これによって「一国二制度」は完全に崩壊した。このことが1984年の「中英共同声明」に違反することは明らかであり、強大な軍事力と経済力を誇示して国際公約を平然と破る中国の横暴を国際社会の一員として見逃すわけにはいかない。香港のような国際金融都市にとって重要なのは情報の自由であり、また外国人を差別せず誰もが自由に活動できる経済の自由である。この自由に対して威嚇となる条例ができたことは、国際金融都市にプラスになるとは考えられない。

 

 

 

 

 

中国の「反スパイ法改正法」との関連性

 

習近平政権は2023年7月1日改正「反スパイ法」を施行し、共産党の一党独裁を堅持して外国の自由主義思想を断ち切るため、外国人の監視を徹底している。「国家安全を守る」ことを第一の理由に、現在でも当局の裁量によって身体を拘束され懲役刑や死刑判決を言い渡されている人々が後を絶たない。改正法の施行によって、まず国家安全部の権限が強化されまた対象範囲も広くなり、これまで以上に国家による監視―自由への制限や干渉がますます強化された。特にスパイ行為の定義が広がり「国家機密」に加えて「国家安全にかかわる文書やデータ、資料、物品」を窃取する行為がすべてスパイ行為の定義に盛り込まれ取り締まりが一層厳しくなった。また、スパイ行為の調査において、郵便や宅配業者、インターネットのプロバイダーなどの支持と協力が義務化されるなど今回の改正によってこれまで以上に恣意的運用や通信傍受、知的財産侵害などのリスクが高まっている。また特に驚くべきことは、かつて文化大革命時代に存在した密告制度の採用だ。疑わしい者(?)を当局に密告することが義務付けられ、その内容によっては報奨金が支払われたり、職場における勤務評価に有利になるなど、この国民総密告制度はまさに国民総監視社会―暗黒社会の到来を意味する。「誰が、何を、なぜ」密告するかもまったく知らされないなかで、不当に逮捕拘束される恐れが一層強くなっている。「国家安全」を理由にこれまで以上に摘発や拘束が増えるのではないか。

 

 

著者は「国家の安全に危害を与えた」として6年の懲役生活を経験した。明らかに冤罪であり、この理不尽な中国のやり方については今後もあらゆる機会を通じて発信をしていこうと考えている。したがって、発信しなければならないことは山ほどあるが、それについては別の機会に譲ることとして、ここでの大きな問題はスパイ罪の曖昧な運用についてである。全てが「秘密」であり、何が「国家の安全と利益」に当たるのかがはっきりしないのだ。それを決めるのは中国でスパイの摘発を任務とする国家安全部だ。都合のいいように法を解釈し、罪をでっちあげ無実の人にスパイの濡れ衣を着せるやり方は今後も変わることはあるまい。仮に逮捕されてもそれは決して社会に明らかにされることはない。すべてが秘密であり、闇から闇へと葬られ、場合によっては死刑にされてしまう。恐ろしいことだが、著者はこの光景を6年間も見てきたし、悲しいことだが、30年以上交流のあった友人はすでに処刑されてしまった。もちろん裁判も非公開であり、しかも1回だけの審理で2回目は判決という速さ。被告の代理人であるはずの弁護士も戦ってはくれない。大部分の者が一般的には10年以上の厳しい懲役を科せられる。習近平政権は「法治社会」の実現を高らかに提唱しているが、全くの出鱈目。この国が今も国連人権委員会の理事国であると声高に叫んでいるのを見るとむしろ滑稽だ。

 

日中関係者はもとより、優れた研究者やジャーナリストであれば多様な情報源を持つのは当然だが、それが当局の「さじ加減」でスパイと認定されては、現地での調査や交流はほぼ不可能となってしまう。そして、ひとたび拘束されれば弁護士も全く頼りにならず減刑を餌に自白(→起訴→徒刑)へと追い込まれてしまうのだ。

 

この背景には、共産党政権は欧米勢力の浸透による政権転覆の企てへの警戒を強め、体制維持への取り組みを強める姿勢を鮮明にしていることがあげられる。そして、「国家安全」を政権の最重要課題と位置付けている。「国家安全」の問題は全てが不透明であり常に秘密のベールに覆われている。この度の「改正」によって外国企業や外国人は萎縮し、なかには撤退を余儀なくされている企業も出てくるなど「開かれた市場」をうたう中国への信頼を大きく損ねている。

 

それにしても、習近平政権は今や強大な権力を握り、社会を厳しく統制する力がありながら不安に駆られ社会の多様な価値を認めない。そして、外国勢力が政権転覆を狙って中国社会に浸透を図っているという強迫観念にとらわれているのはなぜだろうか。

 

ゼロコロナ政策の放棄によって景気は上向いたものの、不動産業の新規投資は勢いが弱く、輸出は停滞し若年層の失業率は2割に迫る。このようななかで、根拠薄弱な拘束は中国から外資を遠ざける大きな要因となる。にもかかわらず中国はその深刻さと事の重大さを理解していないのではないか。習近平国家主席は西側諸国による中国の人権状況批判に対し「腹いっぱいでやることのない欧米人が中国の欠点をあげつらっている」と罵り「中国には中国の人権がある」と強調する。そして中国における「法治社会」を標榜するが、しかしグローバル・スンダードが一切通用しない中国の人権状況はまさに「法治」に比するものではなく、民主主義と情報公開を進める世界の潮流に逆行するものである。また、中国は経済交流の活性化を促すことを高らかに叫ぶが、情報開示なき身柄拘束が続く限りそれは不可能だ。

 

 

 

 

 

結び

 

習近平主席は3期目を迎えた。このことは、従来より党の主席の任期は2期までとするとした規約を自ら変更してしまったことによる彼のごり押しそのものであるが、この先彼がいつまで権力を手中に収めるかは定かではない。しかし、おそらく彼は一度握った権力を手放すことはないだろう。一度退任するにせよ、院政を引いて権力中枢に君臨する可能性もある。また最近では、夫人の彭麗媛氏を党の要職につけるのではないかという噂が出るなど、今まさに彼による一強支配が進んでいる。チャイナセブンといわれる党中央最高指導部(政治局常務委員)は、全てが彼の地方幹部当時の秘書や部下であり、習近平主席のイエスマンであることから現状はまさに習近平主席の独裁体制という状況であるが、そのようななかで彼の周囲の幹部たちは官製メデイアを駆使して「習近平主席は偉大で光栄な正当な指導者である」とたたえている。

 

しかし、これまでの歴史を見れば明らかなように、個人崇拝と指導者の偶像を図るためにはそこに必ず恐怖政治が伴う。指導者の言論に対し異論を唱える者を投獄するなどの締め付けを行うことは当然想定できる。これまで政府の愚行を批判するジャーナリストや作家も何人も拘束されてきたし、拘束された一部の弁護士やジャーナリストや作家は正規の裁判手続きも経ずにテレビやマスコミ紙上で罪状認否をさせられている。まるで文化大革命の再来である。

 

なぜここまで統制を強化するのであろうか。晩年の毛沢東は国民の間で神と同じように絶対的な存在になっていた。毛沢東の言ったことに少しでも異議を唱えれば、誰かに密告される。そしてすぐに投獄され、場合によっては処刑されてしまうことになる。習近平は「第二の毛沢東」目指しているといわれる。彼は国家の目標について「強固な中国」を目指すことを明言している。そして、彼は「国家の安全がなければ社会の安定はない」とし、国家の安全がなければ強い中国を作ることは不可能と説く。専制政治において指導者は選挙によって選ばれるのではない、ためその権力基盤を固めるには国民を個人崇拝へと導く。政治指導者を偶像化し、その社会で絶対的な存在を高めようとするのだ。これは晩年の毛沢東がまるで神と同じような絶対的存在になったことを考えれば明らかだ。

 

現在、世界に潮流はさらなる自由化と規制の緩和であり、中国における統制の強化は時代の潮流に逆行する動きである。しかし、どんなに統制してもその効果はおそらく限定的であろう。これ以上中国が人々を厳しく管理統制する国家を目指すのであれば、おそらく国民はついてこないし、行き過ぎた情報統制は自らの首を絞めつけるだけであろう。自由を味わった(少なくとも文化大革命当時と比べれば)国民は統制には強く抵抗するはずであり、私はこれにささやかな期待をかけている。いま中国にとって重要であることは規制を強化するのではなく、国民に本当の法治と自由を与えることである。それによって、香港もアジアの金融都市としてまた世界に誇る観光都市として復活が可能となるのである。

 

最後に、現在注目をされている「台湾統一」についても一言触れておきたい。習近平主席は自らの在任中に台湾を統一することで、毛沢東、鄧小平に続いて共産党の歴史に名を残し、さらに国家の基盤となる構成的権力を掌握するという野心を持っている。一方これまで中国の強権的な圧力を受けながらも民主主義を守り発展させる努力を積み重ねてきた台湾の人々は、民主化運動によって自由を勝ち取ってきたという自負を持っている。また、長らく中国の圧力を受けてきた香港を自分たちの写し鏡のような存在ととらえており、今後も人間の尊厳にもとづき人権や民主主義を守り育てていくために戦っていくだろう。習近平による「平和統一」の企ては、「香港安全条例」の施行によって台湾人の支持を得ることが益々困難になったといえよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録
著者:鈴木英司(毎日新聞出版 /2023/4/24)

 

 

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