
地域の観光振興を成功させるデータ創出と活用
はじめに
地域の観光振興をすすめるにあたり、もっとも大切なことは、事業が継続発展することですね。
そのために必要なことは観光客の集客です。
そこで、ここでは、集客PRにおいて、意外におろそかにされがちだけど効果的な手法を一つご紹介します。
それは、ずばり「企画を開始したら第一回目から必ずデータをとって、それを大切に記録し続ける」ということです。
なぜおろそかにされがちなのかはわかりませんが、私が読み聞きしたPR戦術の書物においてもマーケティングの専門家の口からも、この点が触れられているのを私は知りません。たぶん、あまりにも「泥くさく」、ある意味当たり前な行為なので、ストンとスルーされているのでしょう(笑)。もっと、AIの活用やらビッグデータの重要性を語るのに時間と神経を注いでいるからだと思われます。でも、この「泥くさく」当たり前の行為こそが、あなたの企画に直接好影響を与える未知の宝物を生みます。
これを最初にやっておくのとやらないのでは、後から大きく差が出てくるのです。私はこれをかなり効果的に活用しています。
事例をひとつご紹介します。
好調ぶりを維持して全五弾まで展開。佐賀の夜のまちあるきツアー
佐賀市の中心市街地を活性化するために、当方が同地に赴任して見つけた地域の史実や俗信などを1時間30分ほどのまちあるきにまとめたのが、『~恵比須・化け猫・河童伝説~ 佐賀のお城下ナイトウォークツアー』です。

▲ナイトウォーク第4弾のチラシ
ツアーは、ある神社を出発して、このツアーのために地元の方に聞きまわって新たに作った「猫のエピソードスポット」を巡りながら猫の商店街を下ります。猫以外にも、地元で有名なある会社の社長を交通事故から救ったという噂のある恵比須を拝んだり、商店におじゃまして試食のもてなしを受けたりしながら、河童伝説のある松原川のほとりに到着。ここからはゴールの「松原神社」まで川沿いの暗い道を歩き、最後に異形な河童の像を目の前に身ながら、その無念の物語を聞くという内容です。

▲ガイドを務める筆者
このまちあるきは、10回実施したところ、大変好評で「じゃ、2回目もやろう」「いや、2回と言わず、シリーズ化できるかな?」と協会、アルバイトの大学生たち、商店街の関係者らと盛り上がっていきました。地元のメディアも応援してくれて、地元では段々と知られるようになりました。そこで、第二弾以降は「恵比須・化け猫・河童伝説」と「商店街のおもてなしと猫のエピソードスポット巡り」を基本アイテムとした上で、プラスα」の面白い話を毎回仕掛けて行こう、ということになりました。
ナイトウォークの継続・発展、成功の秘密
「参加者のコメント」などをしっかり記録保持しておけば、それをPRの惹句に使ったことでしょうか。
また、初日からアンケートの満足率、および人数をとっておいたので以下ができました。
■100人目、500人目など、きりのいい数字が把握でき、その番のお客様が来た時にサプライズイベントができる。
■そのたびにリリースすることで、初回リリース以外にも中押し的な機会が自然に誕生し、メディアも「それだけ続いているのなら好評に違いない」として紹介してくれた
■満足度を毎回コツコツと集計していたので「ここまで満足率通算97%」「前回は満足率100%達成」など、客観的なファクトとなる数字でそのプランをPRできた。
などです。
集客的にも評判的にも好調な出足となり、参加者満足率は通算で93%を記録しました。
参加者のみならず商店街のみなさんや神社の関係者にも大層喜んでいただけました。
そこで、第二弾から第五弾まで季節を選んで合計約100回、実施することができました。

▲ツアーの終了後、その場でアンケート結果を読み上げる筆者(手前)。成果を確認することで、スタッフのモチベ―ションは回を重ねるごとに高まった
上演記録を取り続け、今は地元を代表する歴史観光の推進役に
また、このツアーでは、最後の第五弾で、ツアーのサブガイド役たちによる「幕末・維新 佐賀の八賢人おもてなし隊」という演劇ユニットの誕生につながりました。
地域の観光振興を促進する役者集団を結成しようとしたアイディアは「ガイドはエンターテイメント性が必要」と思っていたこと、さらに「地元の歴史寸劇を地元の役者が演じ、それをブラッシュアップしていくことで、地元の文化的財産となる」と考えたからです。
市内の演劇経験者が地元の役者を7人集めてくれて、合計8人の歴史寸劇ユニットとして、このナイトウォークツアーでデビューしたのでした。

▲「佐賀の八賢人おもてなし隊」の面々
私はその直後、ナイトウオークツアーの第五弾が終わったとほぼ同時期に観光協会の在職任期が切れましたので、まさに佐賀在住のタイムリミットぎりぎりでこの、今も続く歴史観光の担い手を創出できたと言えます。
同隊はその後、「佐賀城本丸歴史館」「一日5回上演する日曜恒例の歴史寸劇」を上演しています。この日曜恒例歴史寸劇を立ち上げ~発展させるにあたってプロデューサーとしては、リクルートで学んだ取材技術、編集技術、チームマネージメント技術、マーケティングとプロモ―ション、ブランディングなどすべての技術を総動員して、日曜日の定番イベントとして市内外の方の認知を高めてきましたが、この演劇ユニットの上演においても、第一回から一度も怠ることなく、アンケートを取り続け、それを集計・分析、集客PRにつなげています。おかげさまで2022年9月には10周年を迎えるにまで至り観客はその後、10万人を突破。すっかり佐賀の歴史観光の担い手として定着しております。
終わりに
このように、自分たちがはじめた事業企画のデータを取り続けるという地道な作業。あまりに地味なので、誰かが鉄の意志をもって「データを取り続けるのだ」と言わないと、なにかのおりに、ふと立ち消えになりがちです。いったん立ち消えたらもう継続から創出される価値は二度と戻ってきません。ぜひ、意識的に取り組んでみてはいかがでしょうか?
(同友館・2021/6/21)
『まちの魅力を引き出す編集力』が2024年に重版されました。プロモーションにより企画を継続発展させる手法はP263から掲出しています。これまで各地で実施してきた魅力発掘プロデュースの手の内を惜しみなくさらけ出しています。また、講演ではこれらをご依頼を受けたテーマにそってわかりやすくお話しています。ぜひお気軽にお問合せください。
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