大谷由里子 講演会講師インタビュー

大谷由里子 講演会講師インタビュー

 

吉本興業に入社し、故・横山やすし氏のマネージャーを務め、宮川大助・花子、若井こずえ・みどりなどを売り出し、注目を集めた大谷由里子氏。「人材活性プロデューサー」という肩書きで日本全国飛び回り講演を行い、聴講者へ元気を与えている。バイタリティ溢れる大谷由里子氏から、これからのコミュニケーションのあり方、経営者・リーダーのあり方など話を聞いた。 

(text:伊藤秋廣、photo:吉田将史)

 

 


大谷由里子 講演会講師インタビュー- 主にどのような内容の講演を、どのような立場の方々にお届けしていますか?

 大谷:本当に幅広いんですよ。それこそ企業はもちろん、経営者の方々の集まりから、商工会議所や労働組合、国税局が主催するものまで多種多様です。最近は、男女共同参画関連イベントにおける講演依頼が増えています。講演内容に関しては、時代の流れと言いますか、私に対するご期待や、私自身に関心事にあわせて広がりながら、少しずつ変化しているような気がします。最初の頃は「ちょっと吉本の裏話をきかせて?」といった軽い内容から始まり、今では「女性でも生き生き働くことができる環境づくり」といったテーマや地域活性化についてお話しています。

 さらに最近、最も多いのが“心の元気の作り方”といった、モチベーション・マネジメントについてのお話ですね。要するに、1時間30分という時間の枠の中で話を聞いて元気になりたい、あるいは会場にいらした方が、すっきり明るく元気になって帰ってもらえればいい、といったご依頼が多くなっています。

 講師の仕事は【ギャップを埋めること】だと捉えていて、例えば20~30代の参加者が多ければ、できるだけ50~60代の方の考え方を織り交ぜてお話をし、もちろんその逆のパターンもありますよね。企業の管理職が多ければ、若手社員の考え方を織り交ぜ、新入社員には上司の考えを伝えています。【ギャップを埋める】ということは、すなわち“気づき”を与えるということなんです。自分たちが一方的に理解して話していることが、部下にはまったく伝わっていないというケースはたくさんあります。それを抽象的にお話しても理解しづらいとは思いますので、できるだけ具体的な事例を示しながら説明します。

 例えば、40代の上司がカラオケでチェッカーズの「涙のリクエスト」を歌っても、歌詞に登場する“ダイヤル回して、コインを入れる”というシチュエーションが理解できないとか、トランジスタ・ラジオを見たことがないという話をします。それが職場だったらどうでしょう?上司が簡単に「お前の電話番号を教えろ」といっても、今どきの若者はLINEの無料通話を利用しているから、電話番号なんてもっていないと。大切なのは、“何がわかっていて、何がわかっていないか”を正しく掌握し、それを埋めるためにコミュニケーションが必要だと説明するのです。具体的な例を示して相手の心にしっかり刺さらなければ、人は素直に話を聞いてくれませんから。そのように心がけながら、お話をさせていただいています。

 

- ご自身の講演だけではなく、他の方が講演を行うための台本作りも手掛けていると聞きますが。

 大谷:そうですね。今までに1,000人以上の方をサポートしてきました。どうしても、一方的に聴衆に対して“教え込もう”とする講師が多いのですが、それでは学校の授業と同じで相手の心には刺さりません。人の心に刺さる話し方というのは、講師に限ったことではなく、人前で話をする機会が多い経営者の方はもちろん、それこそ部下を持つ管理職の方にとっても必要な力のひとつです。企業研修を通じてわかったことですが、部下の最大の悩みは“上司の話が長いこと”だそうです。この状況は、せっかく熱弁を奮っても相手に伝わっていないという上司にとっても、苦痛を感じている部下にとっても、不幸なことと言わざるをえません。どうせだったら、そういった場面も生産性の高い“プラスの場”にしていくべきなのですから、魅力的な話し方で、しっかり相手に伝えることは、あらゆる立場の人にとっても重要な力のひとつであると言ってもよいでしょう。

 私は、面接時の自己アピールやオーディションも全部含め、例え3分でも5分でも人前で話す機会が生じたら、それはもう講師なのですよと、皆さんにお伝えしています。1,000人分の講師台本のお手伝いをしていると、私の中に事例がたくさん蓄積されてきます。そうなってくると、自分の講演の中でもスポーツ選手の話を入れた方が良いのか、経営者の体験を織り交ぜた方がいいのかなど、聴衆に合せて組み立てることができるようになり、益々、相手にとって楽しく、具体的に刺さる話ができるようになります。

 

大谷由里子 講演会講師インタビュー- 吉本興業に入社するきっかけはどのようなものだったのですか?

 大谷:当時の吉本興業は、現在ほど有名ではなかったですし、そもそも新卒の採用をしているとは思ってもいませんでした。私が就職活動をしていた時代といえば、まだ男女雇用機会均等法が制定される以前のことで、世の中には、“大卒の女の子は2年ほど働く『腰掛け』でしょう”とう考え方が蔓延していました。私はメーカーへの入社を志していたのですが、ほとんどが縁故採用という状況で、20社ほどアタックしたもののあえなく全滅。父親が開業医だったので、製薬会社への縁故入社の口がないわけでもなかったのですが、父の息が掛かった会社に放り込まれるのは絶対に嫌だと思っていました。マスコミへの興味はありましたが、大手広告代理店の説明会に何千人も集まってくるような状態。これはムリだろうと諦めてはいたのですが、何の気なしに見ていたマスコミ年鑑の最後のページにあった“吉本興業”の名前を見つけ、物は試しとハガキを送ってみたら、紙ペラ1枚の求人資料が自宅に送られてきました。“これは面白そう”と興味本位で応募したら、いきなり役員面接に呼ばれました。女性が少ないこともあってか、そのまま採用が決まってしまいました。

 
― 吉本興業では、かなり充実した日々を送っていらっしゃったようですが。そのパワーの原点はどこにあったのでしょう?

 大谷:吉本興業での3年間については、『吉本興業女マネージャー奮戦記「そんなアホな! 」』という書籍にも書かせていただいたように、非常に濃密な時間を過ごしたと思っています。結局、私の仕事は芸人さんを盛り上げて舞台にあがってもらうこと。マネージャーの私がネガティブなことを言っていては仕方がないという社風だったのですね。だから、常にポジティブシンキングでいなくてはなりません。こういっては何ですが、ごく一般的な企業に勤める、ごく普通の人ではなく、少々風変わりで力強く生きているような、そんな社員ばかりが集まっている会社でした。仕事はとにかくハードでしたが、当時はそれでブラック企業と称したり、メンタルを病んだりするような人もほとんどいなかったように思えます。

 例えば当時のIT企業をみても、今と変わらず忙しかったにも関わらず、うつ病を発症する人もいませんでした。一体当時と現在では何が違うのか?あの頃は、パソコンやシステムが障害を起こすことなど日常茶飯事で、修理に来てくれたエンジニアが感謝されていましたよね。ところが今ではそれが、クレームの対象でしかない。先日、ガス会社の方からお聞きしたのですが、昔はそれこそ、“ここにガス管が通る”となれば感謝されて、工事監督にお茶を出してくれる方さえいたと。ところが現在では、“なんでこんなところで工事をするの?”と迷惑がられる始末。そういった時代の変化、社会の変化、人々の気持ちの変化を理解しないままに、成果が出せない部下を責めるのは筋違い。やはり大切なのは理解力なのでしょう。

 

大谷由里子 講演会講師インタビュー― 確かに、クレーマーの問題などが増え、“生きづらい世の中”になっているような気がします。解決する方法はあるのでしょうか。

 大谷:それを解決するには、地域教育が必要だと考えます。例えば、北欧では労働組合と企業とハローワークが連携し、その地域に必要な“人物像”を考え、人材を育成していきます。ところが日本ではどうでしょう?観光が盛んな地域も工業地域も、みな一律になっていませんか?地域ごとに特色ある教育を進め、地域に対する理解を深めていけば、少なくともガス工事の例にあるような “負の感情”は薄れていくと思うのです。上手くいっている街の事例を積極的に取り入れ、そこに自分の街の特性を加味していくことは、地域活性化成功への近道だと思いますし、私はそういった事例を数多く収集し、皆さんとシェアしたいと考えています。元々、好奇心が強いので、面白い街だと思ったらすぐにそこを訪れ、関係者に話を伺います。この目で実状を確かめ、そしてお話を聞くとディテールまでしっかり理解できて、本やネットニュースではわからないような裏話まで収集し、はじめてリアルな像を結ぶことができます。やはり、この目で確かめることのない、単なる噂話レベルの話題をベースに講演しても、人の心に刺さるような話にはならないと思うのです。

 

― 吉本興業を退社してから、ご自身の会社を起業するに至った経緯をお聞かせください。

 大谷:吉本興業を寿退社して、2年ほど専業主婦生活を送ったのですが、苦痛で苦痛で仕方がなくて“もう無理!”と思いましたね。だって、時はバブル絶頂期。友人たちもバリバリ仕事や遊びに興じています。元々、家庭に収まってじっとしていられるタイプではなかったのですよ。そこで、たまたまフリーランスのコピーライターとして独立したばかりの友人のマネジメントを買ってでて、マネージャー業を再開。そのうちコピーだけでなくデザインもやろう、さらに吉本時代の経験を活かしてイベントも請け負っていこうと業務の幅を広げ、友人と一緒に企画会社を設立しました。会社自体は順調に成長を果たし、社員も増え、企業としてしっかり組織化していかなくてはならないといった段階になって、もっと自由に働きたいと思うようになり、後輩にその会社を譲ってしまいました。ちょうど、その頃から販促をテーマとした講演のオファーをいただくようになっていましたし、当時は女性の講師も少なかったですからね。珍しいのか、どんどんオファーが入るようになっていました。会社を経営していた時代に勉強していたコーチング手法についてもニーズが高まっていた時代でしたので、吉本時代のマネジメント経験を踏まえたうえで、人材育成についての講演も引き受けるようになっていました。

 

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大谷由里子 講演会講師インタビュー― 多方面でご活躍中の大谷さんですが、現在、もっとも注力されているは、どのような活動でしょうか。

 大谷:現在、私の中で主軸になっているのは、イノベーターづくりです。地域のイノベーター、会社の中のイノベーター、あらゆる組織、社会において、新しい価値を作り出す人間を生み出していきたいと考えています。イノベーター育成に必要なのは、個性的な人間を認めてあげる環境を作ることです。元々、そういうタイプの人が好きなのです。吉本のタレントもそう、中小企業の経営者の多くも個性的で、ちょっと“変わっている”人が多いですよね。地域活性に取り組んでいる人にも、そういったタイプの方が多い。少々変わっている人は総じて、その組織を、そして社会をイノベートする力を持っていると思っています。確かに抵抗勢力もあります。特に、地方に行けば、排他的な考え方を持つ人も多くいらっしゃいます。私が現在、関心を寄せている移民問題も同様。自分とは違った文化や、少し変わっている人たちを柔軟に受け入れる、マインド教育が必要です。

 

― 考えの異なった人々が共存できる社会を作るコミュニケーションとは、いったいどのようなものなのでしょう?

 大谷:現在、誰もが口にする“コミュニケーション力”とは何か。原点にかえって考えてみてください。技術だけを磨いてもダメ。やはり、この人としゃべりたい、この人と友達になりたいというシンプルな“思い”がもっとも大切なのだと思います。今は、小学3年生から英会話を習わせるなんて話もありますが、私は違和感を覚えますね。幕末の志士たち、いわゆる“長州FIVE”や“薩摩スチューデント”は、事前の英語教育も受けずに、いきなり船に乗って海外に渡りましたよね。そこにあったのは、異国の新しい文化を学んで持ち帰り、日本と言う国を良くしたいという“思い”だけです。この“思い”、すなわち自分の哲学を持たせてあげることが大切なのです。

 私が現在、講演や研修に取り入れている「1分間スピーチ」では、徹底的にトレーニングを重ねることで、自分の言葉が内側から湧き出てきて、そこではじめて自分の哲学に気づいていきます。私としては、その瞬間が楽しくて、多くの方々にこの手法を広めていきたいと考えています。

 
― 先ほども少しお話が出ましたが、昨今、メンタルヘルスの問題がクローズアップされています。大谷さん流の“ココロの元気”の作り方を教えてください。

 吉川:人が元気になるのはインプットではなく、アウトプットした瞬間です。私が主催する講師塾では誰もがみんな、放っておいても元気ですよ。1日中、3分間、5分間の講演ネタを作っていると、どうしても自己開示合戦となりますから、これまでの経験のすべて、負の話まで掘り下げて、お互いに公表し合うようになります。自分の中で消化しきれていない記憶も、人に話しているうちに綺麗に消化できるようになるから不思議なものです。

 地域活性化を進める中で、人が元気になる瞬間が何かということもはっきりしています。それは、自分で思いついたことを自分でカタチにすることです。企業におけるメンタルヘルス研修にも、この手法を取り入れています。例えば、自分の会社のCMを作ろうというテーマでアウトプットを重ねていけば、本人はもちろん、その人が属している組織や会社も元気になる。そんな活動を進めています。

 

― 最後に講演会で伝えたいことを教えてください。

 大谷:常に一貫して言っていることがふたつあります。ひとつは、“人生の長さは神様が決めるかもしれませんが、でも人生の幅は自分で何とでもできる”ということ。自分の幅を広げるために、まだまだやれることはあったよなと気付いてほしいと伝えています。幅を広げるためには結局、奥の先人たちが言ってきたように、好奇心を持ち続けることが重要なのだと思います。そして、行動力も必要ですよね。もうひとつ伝えたいのは、“比べなくてはいけないのは人ではなく、昨日の自分”という言葉。自分は昨日より笑っているか?昨日より学んでいるか?昨日より動いているか?それを比べることができる人間になってくださいと言い続けてきました。そして自分に対しても、“今日は人生で一番若い日”と言い聞かせています。

 

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