京谷和幸 講演会講師インタビュー

 京谷和幸 講演会講師インタビュー

1993年にプロサッカー選手としてJリーグ開幕をむかえるも、半年後に交通事故で脊髄損傷、車いす生活に。
リハビリの一環として出会った車いすバスケットボールに魅了され、選手として4度のパラリンピックに出場。
現役引退後は、サッカーと車いすバスケットボールの指導者として活躍されている京谷和幸さんに、
講演会で伝えていることやコーチとしての指導論について伺った。

(text:伊藤秋廣、photo:吉田将史)

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常に心で伝えたい、心に伝わるような講演会をしたい

京谷和幸 講演会講師インタビュー──主にどのような業界や団体で講演をされていらっしゃいますか?

京谷 一般市民の皆さんを対象にしたものや、学校・企業・自治体など多岐に渡る団体様からお声がけいただいている状況です。また最近は、オリンピック・パラリンピック教育の一環として、小中学生に夢を持つことの大切さを伝える講演も増えていますね。

──どのようなテーマでお話をされることが多いのでしょうか。

京谷 自分が話せることは、夢を持つことの楽しさであったり、“チャレンジ”“挑戦”“あきらめない”といったキーワードであったり、あるいは、現在は車いすバスケットボール日本代表と、大学サッカー部の外部コーチをしているので、リーダーシップやチーム作りについて、お話しさせていただくこともあります。あるいは交通事故の後で実感することとなった“夫婦の絆”についてもそう、僕のこれまでの経験の中で感じてきたこと、学んできたことであれば、主催者のご要望に合わせて話はできるかなとは思います。ある意味、「専門家」ではないので、細かな理屈や理論といった部分まではお話できませんが、心に訴えかけるような、そういう話をしていきたいということは、毎回の講演で心がけているところです。
 

──今の子どもたちについて、何か感じるところはありますか。

京谷 よく“夢が持てていない子どもが多い”といわれていますが、実はそうではないような気がします。実は、みんな夢はあるんですよ。それを大人がちゃんと引き出してあげることができていないだけという気がするんですよね。100人いたら100人全員が夢を持っているかというと、そうではないかもしれません。ただ、誰にでも好きなことや、得意なことってあるじゃないですか。そういうものの中から色んなことを試しながら、一生懸命やっていればいつか“出会い”があって、必ず“夢”を運んできてくれるという話をするんです。実際、そういう機会を与えることで、気づくこともあるのではないでしょうか。

 僕自身、これまで二つの夢を持って生きてきました。一つ目は、子どもの頃からサッカーを続けてきて、そのままプロサッカーになりたいという夢です。しかし、それが事故で駄目になった。夢も希望もないわけですよ。そんなときに“頑張りなさい”とか“夢を持って”“希望を持って”と言われても持てるわけがありません。そういう子どもたちも多分いると思うんですね。かつての自分が何をしてきたのかを思い返して、そうした子どもたちに伝えているのは、「何か行動を起こさない限りは今の状況は変わらないから、とにかく今、できることをやろうよ」ということです。そうすれば新しい“出会い”がある。例えば、僕の場合は車いすバスケットと出会って、そこからまた別の新しい夢を見つけることができました。だから、「慌てることはないよ」ということは伝えていますね。

京谷和幸 講演会講師インタビュー──子どもだけでなく大人の中にも迷っている人はたくさんいるでしょうね。

京谷 そうですね。企業の研修や講演の中でも、常に夢だったり、目標だったり、目的だったりを持ち続けることで自分が変わっていく、そしてそのことは自分が成長していくために必要なものだという話をします。それは、特別な人ではなく誰もができることだと思うんです。例えば、僕がパラリンピックに出場したり、プロのサッカー選手になったりしたことはすごいことだ、特別なんだという人もいますが、僕は決してそうは思いません。そんな風に考える皆さんだって、この企業に入りたいといって就職活動に励み、努力してきたではないですか。それと何が違うの? という話ですよ。

 子どもたちにも伝えているのですが、夢の大きさやカタチは違ったっていい。人それぞれに考え方も価値観も性格も一緒ではないのですから、夢の持ち方が違うのは当たり前のことです。人の夢や目標と比べたり、自分の夢が小さくて他人に話せなかったりするというのはナンセンス。大人たちにもっと夢を持ってもらわないと。子どもたちがその世代の姿を見て育っているわけですから。だから僕も死ぬまで全力で頑張らなければいけないと思っていますね。しっかり導いてあげたり、背中を見せたりしていないのにもかかわらず、“今の子どもたちには夢がないのではないか”と言うのは良くない。僕は今、千葉県の教育委員としての役務もいただいているので、そういう立場からも“夢を持つことの大切さ”をことあるごとに主張させていただいています。

──講演の際に特別、工夫されていることはありますか?

京谷 基本、素のままですすね。最初から、“こういう話をしよう”と決めつけて臨むことはありません。講演を始めた頃は、レジュメを用意したり、こういう順序で話をしようと事前に考えたりはしていましたが、今は会場の対象者の顔や雰囲気を見たり、反応を見たりしながら考えるようになりました。僕にとって講演は一つの試合なんです。

 例えば、自分の思っていることだけを伝えすぎても相手が引いてしまうときがあって、そんなときにどうするか。また、相手が何を感じているのかを探るような話を小出しにして、食いついてきたらこの話で行ってみようとか、笑いのネタを出して笑わなければ今日はまじめな話で進めようとか、そういった駆け引きみたいなことをしています。常に緊張感をもって臨んでいますね。

──これまでのご経験が、話の内容だけでなく、表現方法にも影響を与えているということですね。

京谷 そうですね。今も指導者として色々な選手を観察しています。プレイスタイルはもちろん、コミュニケーションをとりながら、それ以外の部分、人間性について目を向けたりします。相手が今、何を考えていて、このタイミングで、どういうことを伝えてあげたほうが良いのかということを常に考えているので、自分で言うのも何ですが、指導者になってから、講演の深みも少しは出てきたかなとは思いますね。

 これまでもトライ&エラーを繰り返しながら、内容や表現方法もブラッシュアップして、現在の講演スタイルを作り上げてきました。特別な要望がない限り、パワーポイントを使用しないのもそうです。ビジュアルに頼ってしまうと目も意識もそちらに行ってしまいます。自分の中で、常に心で伝えたい、心に伝わるような講演会をしたいと思っていたので、話が中心という今のスタイルになりました。最近は、講演が天職だなと思うときもあります。人に伝えることが自分は好きなんだと。表現して、自分を見てもらって評価されるということは、スポーツをやっているときから好きだったので、それは一緒だと思うんですよ。

 

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人として当たり前のことが当たり前にできる選手を育てる

京谷和幸 講演会講師インタビュー今年1月に、嵐の櫻井翔さん主演で、ドラマ「君に捧げるエンブレム」が放送されましたが、反響はいかがでしたか?

京谷 僕自身は特に変わりはないですね。ただ、あのドラマを見て、車いすバスケットボールに興味を持った方々が増えたとは思います。放送日には僕のブログに7万件のアクセスがありました。TVのチカラはすごいですね。実際に会場に足を運んでくださるお客さんも増えてはいますから、それはとてもありがたい話だと思いましたね。

近年、「スラムダンク」で知られる井上雄彦氏による漫画「リアル」も人気ですが、車いすバスケットの競技人口や、観客数の変化はありますか?

京谷 今、競技人口が700人弱。僕がやり始めた頃は1500~1600人はいましたから、半数近くまで減少しています。僕らは第二次ベビーブームに生まれた世代ですからね。その世代が引退や、少子化の影響もありますし、あとは交通規制や取り締まりが厳しくなって怪我をする人も減少しています。それは喜ばしい話ではありますが、2020年の東京パラリンピックに向けて、選手の発掘・育成をするにはあまりにも絶対数が少ないので、限られたメンバーしか育てることができない。待ってはいけないのですが、待つしかないんですよね。

 現在の日本は、世界ランキングで9~10位を行ったり来たりしている状況ではありますが、実際には予選会で勝ち上がってくることができない強いチームがヨーロッパにたくさんいます。そんな状況の中、先月、僕がヘッドコーチをさせてもらっているU23日本代表チームを世界選手権へ連れて行って、そこでベスト4までいったんですね。これは結構すごいことで、メダルこそ逃してしまいましたが、今回、出場した若い選手と現在の日本代表がうまく融合していけば、それなりに競争力のあるチームができるのではないかと思うんです。幸いなことに、僕はA代表のコーチもやっているので、うまく流れが作れたらとは思っています。

車いすバスケットボールのコーチを行うにあたって、何か特別に配慮されていることはありますか。

京谷 障がい者スポーツだから特別にというものはありません。指導者としての自分は、まずブレることはないので、相手が健常者であっても障がい者であっても、伝えることはすべて一緒です。もちろん、厳しいことは、障がいを持っているバスケットの選手にも、大学チームのサッカー選手にも言います。配慮しなくてはいけないのは、むしろ発掘・育成段階にある選手ですね。自分の身体の状況が分かっていないと、どうしても無理をしてしまう。そういう段階を経て、代表チームにいるということは、もうみんな同じ土俵の上にいると考えられる。だから伝えることはすべて一緒なんです。

京谷和幸 講演会講師インタビュー京谷さんは、選手たちにどういったことを伝えるのですか?

京谷 それぞれの選手にかける言葉は、性格によって変えてはいますが、まず、前提として“こういうことを言ってはいけない”“こう言うと引き出せる”というのはコミュニケーションの中で把握します。上から目線ではなく同じ目線で話をして、時には一緒にバカ騒ぎをしたりもしながら対話を重ねていきます。41歳で現役を引退するまでに一緒にプレーをしていた選手もいるので、そういった関係性はできていますし、彼らを通じて新しい選手にアプローチすることもあります。ただ、今までは、どちらかというと選手寄りの指導者になってしまっていたんです。でも、それではいけないと最近気づき始めたんですね。やはり、自分の中で一番大事にしなくてはいけないのは、サッカーでも車いすバスケでも、「絶対、こういう選手を育てたい」という思いがあって、それは、“人として、人間として当たり前のことを、当たり前にできる選手”なんですよ。

“人として当たり前のこと”とは、どういったものでしょうか?

京谷 例えば、小さなことですが、“靴を脱いだら揃えましょう”ということが、普通にできなければいけないと思うんですね。車いすだってそう。それは大切な自分の足なのですから、どうしてしっかり並べないのだと厳しく注意します。それが、何につながっていくのかと言えば、結局行き着くところは試合なんですよ。サッカー時代の恩師である岡田武史さんの言葉なのですが、「勝負の神は細部に宿る」というのがあって、細かいところまでしっかりと見ていかなければ駄目だということなんですね。

 例えば、クールダウンのときに向こうのラインを踏んで戻ってこいと指示しても、それを守らないやつがいる。適当にやるやつは絶対に代表から漏れているんですよ。そういう細かいところをしっかり積み重ねてできる人間であれば、試合になってもあらゆることを想定した準備ができるし、戦略戦術を伝えればそれをしっかり守って動いてくれる。規律やルールが厳しいですから、少しでも破ったら練習に参加させません。それはA代表でも同じです。遅れてきたら、海外遠征であっても最初の試合に使わない。そうするとチーム全体がギュッと締まるんですよ。そして聴く力が出てくる。ヘッドコーチの指示をちゃんと聴けるようになります。そういった“ピリピリした感覚”が今までは不足していたので、しっかりやっていくべきではないかと思っているんですね。それはバスケだけでなく、大学のサッカーの選手たちに対しても同じ思いがあります。

 

失敗は成長するために必要なもの

京谷和幸 講演会講師インタビューご自身の選手時代、思うような結果がでない時にはどのようなことを心がけていましたか?

京谷 辛くなったら一旦、すべてを放り出します。練習で行き詰ってうまくいかないとなったら、“もう止めよう”と考え、しばらく何もしないようにするんですよ。でも、気づくと次の日には自然と“やらなきゃ”という気持ちになっている。やっぱり身体がそこに向かっていて、そうなると何とかしなくてはとなりますよね。初めから頑張って、頑張って、頑張って、と自分を追い込むことはありません。一回、その目線を変えてみると、絶対的な自分の目的・目標はここにあるわけですから、また戻ってくる。突き詰め続けるのって、なかなか難しいですよね。紆余曲折しながら向かっていけばいいんです。

 あと、自分がうまくいかない、困難に陥ったというような時は、まず、ちゃんと向き合うべきですよね。何でうまくいかないの? と。これも講演でよく話をするのですが、失敗は、どうしてもネガティブにとらえられがちではないでしょうか。でも、実は失敗って、自分にとってプラスになるんですよ。“自分はこういうことをやったら失敗する人間だったんだ”と気づくことができるではないですか。

 例えば、次のステージに向かう道が一つだけあったとして、その道の先に何が待っているかは分からない。何をやっていいかは分からないけれども、まずは挑戦するわけです。挑戦しなければ正解は求められない。でも、挑戦して一歩踏み出してみたら、失敗したとしても、そこで辞めようというのはもったいないですね。10通りあるうちのまず一つのリスクが減ったわけですよ。こういうことをしたら自分は駄目なんだとわかる。でも、まだ9本の道が残されているではないですか。もしかしたら、次で成功するかもしれないし、また失敗するかもしれない。最終的に9回失敗したら、残りの1本が答えなのだとわかるわけです。だから失敗を何度も繰り返しても、諦めなければ必ず道は開けると。皆さんも、よくそうやって言うじゃないですか。それって、こういうことだと思うんですよ。絶対的な答えはあるんです。何度も失敗を重ねていくのは嫌ですが、実は、失敗は自分にとっての気づきに繋がるので、プラスになって成長するんです。

──なるほど。うまくいかないのに同じ方法でやり続けるのは意味がないわけですね。

京谷 そうです。だって、例えばサッカー選手もそうですが、試合で一本ゴールを決めるために何本シュート練習しているんだって話です。そのときにちょっと足の角度が違うとか、立足の位置がこうだとか、考えながら繰り返していれば、しっくりくることがある。それを何本も何本もやっているんですね。バスケットボールもそうです。何本もシュート練習して、手首の返しがどうだとか、膝の使いかたとかを考える。そういうことは平気でできているのに、なぜ自分の人生になったときにそれができないのか、意味が分からない。一緒だと思うんです。だから僕は、失敗は怖くないんだよと伝えたいんですよね。

 僕自身が大きな失敗をしてきているし、自分自身の誤りで事故が起きてしまった。なぜこんなことが起きたのか? 色々と、サッカー時代のことまで掘り下げながら、こんなことをやってはいけないと考え、では自分はこれからどうしていくか? ということを決めたからこそ、今があるわけです。大きな失敗を乗り越えたからこそ、これだけ成長できた自分がいるので、身をもって「失敗は成功ではないけれど、成長するために必要なものだよ」と言えるんです。

 

車いすバスケットボール・サッカー・講演会

京谷和幸 講演会講師インタビュー──2012年の現役引退後、指導者として再びサッカーの道を選ばれましたが、それはどのような思いからでしたか?

京谷 人と同じことはしたくなかったということですね。変わったことをしたい。すでに車いすで指導をされている方はいたんですが、彼はずっとサッカー畑だった。車いすバスケを経験した障がいを持っている人間が戻ってきて、またサッカーという競技で結果を残せたら注目を浴びるかなと。少し人と違うことがしたいというか、お決まりのパターンで進むのが嫌だと思っていたんですね。二つの違った競技で培ってきたコーチングの手法が、それぞれに波及して、着実に効果は現れていると思うんです。

 例えば、ディフェンスの動きやスペースの作り方はサッカーで学んできた。それをバスケットに落とし込むと、こういうことができるなとか、逆にバスケットの手法をサッカーのトレーニングに取り入れるとこういうことができるなとか。二つの競技の共通する部分は少なからずあるし、これまでの発想では生まれない新たなトレーニングを編み出すことで、効果も現れていると自負しています。

──これからの人生の目標・テーマについてお聞かせください。

京谷 もちろん今、一番多く時間を費やしているのは車いすのバスケットで、年間100日くらいは合宿や遠征に関わっていますし、大学のサッカーチームには月10回くらいは通っています。講演会は現在、年間60本ほどやらせていただいていますから、これからもこの3つを自分の中でうまくバランスをとりながら続けていければと思います。まずは2020年の東京パラリンピックに焦点を定め、車いすバスケットのチームにメダルを獲らせるという使命に向かって、選手に嫌われてもいいからケツを叩いて、“怖い京谷”を出し続けていかなければいけないと思います。

京谷和幸 講演会講師インタビュー 同時に大学のサッカーに関しては関東リーグに上がれるように、選手たちの話を聞いてあげたり、ちょっとしたアドバイスをしてあげたりしながらサポートしたいですし、講演活動では自分の経験を通じて夢を持つことの大切さだったり、出会いのすばらしさや感謝することが大事だというような当たり前のことを伝えていきたい。これらすべてに対して全力で取り組んでいくつもりです。

 とはいえ、最終的な着地点はどこなのかと考えたときに、最後はやはり、もしかしたらサッカーになるかもしれません。やっぱりサッカーが好きなんですね。本当に先のことなので分かりませんが、最終的には監督やコーチとしてサッカーの世界に身を捧げたいですね。極論を言うと、プロのコーチになりたいんですよ。




──指導者として選手の背中を押していく仕事の醍醐味とは、どのようなものでしょう。

京谷 選手が自分たちの言葉や指導で変わっていく様を見るのは非常に嬉しいですし、メダルを獲らせたときに喜んでいる姿を自分も見たいという思いがあります。もしかしたら自分がメダルを獲れなかったからこそ、彼らに獲らせて、自分がとった時の感覚はどういうものなのかを確認したいというのもあるかもしれません。本当にメダルを獲るのって難しいですよ。今回のU23のチームで経験した、ベスト4までいってもメダルを獲れないという難しさ。見えないプレッシャーはスタッフにも選手にもありました。悔しかったけれど、その経験は東京パラリンピックという舞台で活かしていきたいものですね。

  

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