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乙武洋匡 講演会講師インタビュー

1998年、早稲田大学在学中に発表した『五体不満足』(講談社)が国民的ベストセラーとなり、その後、テレビキャスターやスポーツジャーナリストとして活躍を続けてきた乙武洋匡さん。常に「人に伝える」活動をしてきた中で、乙武さんが選んだ新しい舞台は、教育現場――小学校の教壇だった。
現在の教育現場には様々な問題が横たわっているが、乙武さんはユーモアを交え、あくまでも明るく、教員生活を振り返ってくれた。子どもと本気でぶつかりあう中で、自身が一貫して伝えてきたメッセージがあらためて明確になったという。足の速さ、頭の良さ、あるいは障がいの有無――それは優劣ではなく個性であり、「みんなちがって、みんないい」。
“『五体不満足』のオトちゃん”として、「明るく優等生的なイメージ」をもたれることに抵抗を感じた時期もあるというが、その言葉はやはり、前向きに、まっすぐ響いてくる。
小学校教員としての体験をベースにした小説『だいじょうぶ3組』(講談社)を発表した乙武さんに、これまでのキャリアを振り返ってもらいながら、「いまもっとも伝えたいこと」を伺った。

(text:橋川良寛、photo:小山幸彦)

“『五体不満足』のオトちゃん”では、伝えられないこと

乙武洋匡

──乙武さんが世の中にメッセージを発信するきっかけになった『五体不満足』の反響について、あらためて振り返っていただけますか?

 

乙武洋匡:日本では、障がい者といえば「不幸を背負っている」「消極的」などのマイナスイメージが先行しています。でも僕自身は、幼いころからずっと楽しく暮らしてきたし、本にも書いたように「不便だけど、不幸ではない」と思っていて。だからこそ、「障がい者にも、こんなヤツがいるんだぞ!」ということを伝えたくて、『五体不満足』を書いたんです。
ところが、思いもよらず多くの方に読んでいただけたことで、「障がい者はみんな明るいんだ!」というイメージを持つ方も出てきてしまった。「多様性」を伝えようとした結果、自分の意見が障がい者を代表しているように受け止められてしまうのは、怖いことだと思いました。そこで、“『五体不満足』の著者”という肩書が通用しない分野で、物を伝える仕事をしようと思ったんです。
自分が興味を持って、皆さんに伝えたいものは何か。そう考えた時に、真っ先に思い浮かんだのが、子どもの頃から大好きだった「スポーツ」という分野でした。人気スポーツ誌『Number』に連載をいただけたのは『五体不満足』のおかげもありましたが、3年、4年と続ける中で、徐々に「スポーツライター」として評価していただけるようになって。多くのお仕事をいただき、ようやく『五体不満足』という十字架を下ろせたかな、と思えるようになったんです。そうして、もう一度「自分が本当にやりたいことは何だろう?」と考えはじめたのが、27~28歳の頃ですね。

 

 

 

「教員になる」という覚悟

──そして、乙武さんは2005年に、新宿区の非常勤職員「子どもの生き方パートナー」に就任。教育の分野に進もうと考えたきっかけとは?

 

乙武洋匡乙武洋匡:2003年、長崎県で当時3歳だった男の子が、中学一年生の男の子に殺害されてしまうという痛ましい事件がありました。メディアは「最近の子どもたちはどうなっているんだ!」と大騒ぎをしましたが、僕は罪を犯してしまった男の子も、きっと苦しかっただろうと思ったんです。
彼らのSOSに、なぜ大人が気付き、軌道修正してあげることができなかったのか――そう考えていくうちに、教育に興味を持つようになりました。子どもの責任を問う前に、大人の責任を問わなければいけないでしょう。
とはいえ、教育という分野は素人が語るには難しい問題。そこで、明星大学通信教育課程人文学部へ学士入学して、教員免許を取りました。そして2007年4月から、杉並区立杉並第四小学校に赴任することが決まったんです。

 

──これまでのキャリアから一転、教員になることに不安はありませんでしたか?

 

乙武洋匡:やっぱり、覚悟は必要でしたね。下世話な話ですが、収入も減りますし、メディアでの活動をストップすることにも不安がありました。けれど、「子どもたちのために頑張りたい」という気持ちや、もっと言うと「両親や学校の先生、近所のおじちゃん、おばちゃんも含めた、上の世代から受けてきた恩を、自分が下の世代に伝えることで返したい」という思いが強くて。
黒板の板書や、体育の授業はどうするか。不安を挙げればキリがないし、他の先生方よりも子どもたちに迷惑をかけてしまう場面が出てくるかもしれないけれど、自分にしか伝えられないことがある。そんな思いで、教員になることを決めました。

 

 

 

学校の9割は、杞憂でできている

──新作『だいじょうぶ3組』は、教員として経験した実話をベースに書かれたそうですが、「赤尾先生」と子どもたちのやり取りが面白く、また胸を打ちます。教員生活を通じて、もっとも大切にしていたことは?

 

乙武洋匡

乙武洋匡:僕が教育現場で一番に感じたのは、「学校の9割は杞憂でできている」ということです。例えば、5年生の理科の授業でインゲン豆を育てて、数ヵ月後に収穫を迎えました。僕は子どもたちと一緒に食べて、「収穫祭」を楽しもうと考えていたのですが、結局は「子どもが給食以外の物を食べて、お腹を壊したら一大事だ」ということで、中止になってしまったんです。
もっとも、保護者の目も厳しくなる中で、学校が臆病になってしまうのも仕方がないのですが、これでは子どもが様々な体験をする機会が奪われてしまう。
そこで大事なのは、保護者と学校側の信頼関係です。例えば、先生と保護者の信頼関係がしっかりしていないと、逆上がりを教えるために女子子どものお尻を押しただけで、「セクハラだ!」という騒ぎになりかねない(笑)。子どもたちとしっかり向き合って指導するためには、保護者の方に信頼してもらうために、積極的に動かなければならないんです。

 

──保護者の信頼を勝ち取るために、苦労をしている先生も多そうです。

 

乙武洋匡:僕の場合は――小渕恵三元総理の“ブッチホン”をもじって、“オトホン”と呼んでいたのですが、保護者の方に毎日電話をかけるようにしていました。普通、担任から子どもの家に電話が行くときは、何か問題を起こしたときですが、僕は小さいことでも、必ず子どもを褒めるようにしたんです。
「○○ちゃんは逆上がりができなかったけれど、本当に一生懸命練習していたんですよ」「○○くんは引っ込み思案なところがありますが、今日は委員に立候補してくれたんです」って。頑張った結果を伝えるだけなら、通知表で十分。結果にならない頑張りこそ、親が知りたいことだと思うんです。
もっとも、最初のうちはなかなか信じてもらえずに、「それで、うちの子が何かしたんでしょうか……」なんて言われました(笑)。でも、数ヶ月が過ぎるとご理解いただいて、僕からの電話を楽しみにしていただけるようになりましたね。

 

 

 

みんなちがって、みんないい

──そうした体験を、ドキュメンタリーではなく小説として書き上げた理由は?

 

乙武洋匡:エピソードの大半は実際に起きたことですが、実際には理想通りの結果にならないこともあって。事実をただ書いていくよりも、楽しく読んでもらいながら、明るい気持ちでメッセージを受け取ってもらいたいと考えたんです。
また、教育に特化した本になってしまうと、教育に関心のある方にしか読んでいただけないかもしれない。僕が教員生活で学び、みなさんに伝えたいと思ったのは、決して教育現場に限ったことではなく、人と人が関わる上での本質的なことです。課題に向き合ったときの心の持ちようや、他人と自分の差異を認めることの大切さは、一般社会を考える上でも重要なテーマですから。
また、「だいじょうぶ」という言葉は、子どもたちへのメッセージでもあり、保護者の方に対するメッセージでもあります。子どもたちが思い切ったボールを投げるためには、キャッチャーになる先生や親が、「どんなボールが来ても受け止めてやるぞ!」という気持ちでいなければいけない。
2児の父親としても、教師としても、子どもの欠点を探すのではなく、何かにつまづいたときに「だいじょうぶ、君にはこんな素晴らしいところがあるよ」と言ってあげられる大人でありたいと思います。

 

──乙武さんのメッセージを受け取って、生の声を聞きたいと思う人も多いと思います。講演会では、どんなことを伝えたいと考えていますか?

 

乙武洋匡:僕が一貫して訴えてきた「みんなちがって、みんないい」ということです。
僕が担当したクラスの子どもたちは、それぞれに大きな魅力を持っていました。けれど、保護者の方は子どもの良いところよりも、ついつい足りないところばかりを見てしまうんですよね。大人だって完璧じゃないのに、子どもが何でもできるわけがありません。ジグソーパズルのピースのように、どの子どもにも出っ張っているところがあれば、へこんでいるところがある。仲間とそれを補い合いながら、最後に一枚のきれいな絵になればいいんです。
これは、地域の集まりだって、会社だって、国と国だって同じことですよね。
具体的な内容としては、90分の講演会で僕が話すのは60分くらい。できるだけみなさんの質問に答えたいので、質疑応答の時間を長く取るようにしています。また、マジメな話ばかりでは退屈してしまうと思いますので、教員生活での笑えるエピソードをお話ししたり、時には車いすから降りて、会場を走り回ったりもしていますね(笑)。明るく賑やかに、メッセージを伝えられたらなって。

 

──最後に、今後の目標を聞かせてください。

 

乙武洋匡:僕は「高いところから物申す!」というタイプではないので、いずれは何らかの形で現場に戻りたいとも考えています。
いまは友人と、「保育園が作れたらいいね」という話をしていますが、当面は本を書かせていただいたり、全国に講演に行かせていただく中で、やっぱり「みんなちがって、みんないい」というメッセージを伝えていきたいですね。

 

 

 

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