森本稀哲 講演会講師インタビュー

森本稀哲 講演会講師インタビュー 

日本ハムファイターズ等で活躍し、ファンサービスにも尽力。球団の垣根を超え、「ひちょり」の愛称で多くのファンに親しまれる。
今ではトレードマークとなっている頭のコンプレックスを抱えながらも「野球が唯一、自分を輝かせてくれる場所だった」と語る森本稀哲氏に、ビジネスにも通じるリーダーシップのあり方やチームビルディング、今後の目標などについて話を伺った。

(text:伊藤秋廣、photo:吉田将史)

森本稀哲 講演依頼 講師プロフィール

 

講演で心がけていること

森本稀哲 講演会講師インタビュー──主にどのような内容の講演を、どのような立場の方々にお届けしていますか?

 業種を問わず、企業向けに講演をさせていただく機会を多くいただいています。求められるテーマは、野球を通じて私が経験してきたことをお伝えするのがメインとなりますが、特に、結果を出すことに対してどのようなアプローチをしてきたのかについてお話をさせていただくことが多いですね。どんな時代も一緒なのかもしれませんが、どの企業も結果を欲しがっています。そこに対するアプローチや考え方もそうですし、チームとしてどう動いたらいいかという点も気にされているように感じます。組織のトップも中間管理職も若手もいる中で、ポジショニングの捉え方やコミュニケーションについて聞かれたり、あるいは、どうやって人を動かすのか? どのようにチームをまとめていくのか? といった直接的な質問を聞かれたりすることも多いですね。

 また、同時に、私というキャラクターに、“少し元気をもらいたい”とか“笑いたい”なといったニーズがあることも感じています。もちろん、こちらとしてはキチンとお伝えしたいこともあるのですが、真面目に話し過ぎても“期待外れ”という雰囲気になってしまうこともあるので、そのバランスは意識しています。

 

──講演を実施するにあたり、心がけていることはありますか?

 トークショーやフリートークでガンガン好きなことを話すのは昔から得意だったので、皆さんの前でお話をすること自体に抵抗はありませんでした。しかし、講演となれば、何か皆さんのプラスになるようなお話しをしたいと思いますし、自分の経験の中からテーマに沿ったものをピックアップして、しっかり時間をとって講演内容を組み立てています。また、皆さんの気持ちをグッと引き付ける工夫として、冒頭の切り出し方や話の組み立て方については、しっかり考え抜いて臨むようにしています。

 

野球が唯一、自分を輝かせてくれる場所だった

森本稀哲 講演会講師インタビュー──野球を始められたきっかけはなんですか?

 小学校4年生の時でした。元々、サッカーが大好きで、地元から少し離れた場所を拠点とするチームに参加していたのですが、学校の友だちも在籍していなかったので、なんとなく部外者扱いというか、疎外感を覚えていたんです。サッカーは大好きだけれども、チームはつまらない……。そんなもやもやした気持ちを抱えていた時に、学校の友だちから「野球やろうよ」と言われて、ちょっとやってみようかなと軽い気持ちで始めました。野球自体にさほど興味はなかったのですが、いざやってみると、単純に友だちとワイワイやっていることが楽しかったですし、それなりに運動神経も良かったので、すぐに基本的なことは身につきました。自分で言うのもなんですが、頭角を現すようになっていったんですね。

 少年野球のチーム自体が少なかったということもあってか、小学校を卒業するころには荒川区内でもかなり目立つ存在となっていて、中学生になったら“うちに来ないか”と、隣町のチームからオファーを受けました。そこは本格的に高校野球で活躍できるような選手を養成するチームで、これまでの“和気あいあいと楽しむ”チームとは真逆の環境でした。そんな時にちょうどJリーグが発足して、一度は諦めていたサッカーでしたが、あそこまで派手に報道をされると、元サッカー少年としても、ものすごく気になってしまうわけです。その隣町の野球チームに入ったら、もう二度とサッカーには戻れないような、そんな気がしていました。

 そこで、完全に“サッカー派”だった父に相談したんです。これまで、仕事が忙しくて子どもの面倒なんてほとんど見てこなかったような、昔かたぎの父親でしたが、その時は動きが早かったですね。どこで調べてきたのか、読売ヴェルディのテストを受ける段取りをつけてきてくれました。そして、「テストに落ちたら野球をやればいいだろう。受かったらサッカーをやれ」と言ってくれたんです。3年間のブランクはありましたが、結構、自信はあったんですよ。ある程度はいけるんじゃないかって。ところが、まったく歯が立たなかった。グラウンドで動いていると、自分の身体が全然動かない。自分はこんなにも下手だったのかとすぐに自覚できるような状態でした。もちろん、不合格だったのですが、そこで完全に諦めがついて、野球に専念しよう、新しいチームのお世話になろうと決めたんです。

 

森本稀哲 講演会講師インタビュープロを意識するようになったのはいつ頃のことでしたか?

 プロを意識するようになったのは、中学一年生の2~3学期の頃でしたね。実はそれまでは結構、勉強ができて、100点をとるような子で、塾にも通っていたんですね。ところが、その時点で“将来は野球で生きていこう”と決めていたので、高校も野球推薦で進学するつもりでいました。そうなると勉強は必要ないと、そこで親を説得して塾をやめて、いったんペンを置きました(笑)。必要のないことにエネルギーを注ぐ必要はないと判断したんですね。今思えば過信ですし、その後、プロ野球選手になれたから良かったんですが……。間違っても子どもたちも参加しているような講演の場ではお話ができませんよね。小学校4年生の時に野球をやろうと思ったときもそうですし、中学の厳しいチームに行くときもそう、まずは自分の意思で選択する習慣が身についていた子供時代でした。

 

──小学生の頃は頭の病気を原因とするコンプレックスを抱え、大会で他チームの選手にからかわれることも多かったとのことですが、それでも競技を続けられた要因はどのようなところにあると思われますか?

 負けてないかというと、そんなことはなく、当時はかなり深く傷ついていましたし、家に帰ってからも、その悔しい思いはずっと引きずっていました。その場で相手に言い返すこともできず、自分の中に吸収してしまうタイプだったので、余計に溜め込んで、それがコンプレックスになっていた……。決して強い少年ではなかったと自覚しています。そのコンプレックスを克服するために、野球が支えになっていたのは間違いありません。野球は国籍とか髪の毛のあるなしとか、そういった条件にまったく関係なく取り組める競技ですし、良く打って、活躍すれば誰もが認めてくれるという実感がありました。逃げ場ではないですが、野球が唯一、自分を輝かせてくれる場所だったんです。野球を通じて、自信をつけていきましたね。友人たちの支えもありました。チームメイトにも学校の友人にも恵まれていましたから、そういった環境が私を助けてくれましたね。

 

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行動でメッセージが伝わる

森本稀哲 講演会講師インタビュー──野球というチーム競技では選手間のコミュニケーションも重要だと思います。特にプロともなれば個性的なチームメイトも多いと多いと思いますが、先輩/後輩とのコミュニケーションで心がけていたことはありますか?

 入団当初はチームの中における自分の役割など考える余裕はありませんでした。まずは技術をアップすることだけに意識を集中していましたね。2軍で経験を重ねて、少しずつ技術が向上していく段階で、今度は“自分が1軍のレギュラーになった時に、どのような選手になっていかなければならないか”と、そんなことを考えるようになりました。ただ打つだけでなく、チームの勝利に貢献する選手になるために、自分はどうしなくてはいけないのか? ということをイメージしながらトレーニングを積んでいたんです。

 当時、西武とダイエーが驚異的に強くて、日ハムは毎日“ボロ負け”の状態。入団したての若手でありながら、“私がレギュラーになったら思いっきりやっつけてやろう”と思っていました。しかも一回勝つだけでは面白くない、常勝チームになっていかなければならないと。そして、常勝チームのメンバーでいるためには何をするべきか、どのような存在にならなければいけないか? を考えていたんですね。そこで私は、最強の一番打者になろうと決意しました。状況に関係なく、常に元気に攻め続ける一番バッターになるのが良いだろうと明確にイメージができて、それに向かって練習を重ねていきました。良い意味で勘違いしていたんですよね。自分がイメージする一番バッター像、例えば、なかなかアウトになってくれないとか、いつも元気に振ってくるなとか、ピッチャーが嫌がるバッターになりたいと。そんな理想像に合致するのは俺しかいない、くらいに思っていました。

 実際にレギュラーになってみると、これまでしっかり固めてきたイメージを必死に実行していくなかで、ようやく周囲のことが見えてきます。“このチームの中で自分はどのような立ち位置にあるべきなのか”と。気がついたら、周囲の選手から助言を求められたり、話の仲介役として頼られたりするようになっていました。

 

──チームのまとめ役として頼りにされていたのですね?

 帝京高校時代にはキャプテンをさせていただきましたが、プロになってからは役職としてのチームリーダーに拝命されたことはありません。チームがまとまらなくてはいけない時に、自分は一番バッターでしたし、背中で何かを見せたいと努力はしていましたね。そもそもチームリーダーなんて、自らが手を挙げてなるものではありません(笑)。私は帝京高校時代も周囲からの推薦でした。私の理想の中に、どんな場面でも諦めずにプレーをするという姿勢があって、例えば10-0で9回の攻撃で諦めて、いつもと違う姿を見せている選手にチームリーダーなんか任せることはできないと思うんですよね。“こういう時に力を抜いちゃうんだ”っていうよりも、“どんな場面でもあいつ、チームのために諦めずにやっているな”という姿勢は大切です。それはチームのためでもあり、自分のためでもあると思うんです。そうやって姿勢を示しながらチームの気持ちをまとめる。選手として経験を重ね、ベテランと呼ばれるようになってからは、チームに対して自分の役割をそのように自覚し、それをしっかり続けていると、周囲の人が“この人だったらチームのためにやってくれるだろう”と期待をしてくれるようになるのではないでしょうか。

 役職としてのリーダーではなく、リーダーシップですよね。それは言葉を駆使してチームをまとめていくのではなく、“なんかあの人の姿って引っぱられちゃうよね”という存在でありたい。リーダーシップは役職者だけが発揮するものではないと思います。行動することで、他の選手に何らかのメッセージは伝わると思うんです。

例えば、先ほどの話のように、どんな場面でも諦めずにプレーするという姿勢について、常にそれを実践している私が周囲に目配りをする。“稀哲が見ていてくれる”と感じた選手が、同じように諦めずにプレーをするようになって、それがチーム全体に広がっていけば、やがてチームカラーになっていきます。行動でメッセージが伝わるということは、帝京高校でキャプテンをしていた時から実感していました。上下関係なく、3年生が率先して元気に練習すれば自然と下級生にも伝わるはずと考え、チームメイトにも伝えていきました。行動で伝えていった方が伝播するのも早いし、確実にチームは変わっていきます。

 

選手の姿勢について目配りができる人間が必要

森本稀哲 講演会講師インタビュー──今、特に注目されている指導者はいますか?

 栗山監督の采配や指導術は勉強になると感じています。優しい顔をされながら、勝負には徹底的にこだわりますからね。4番バッターでも試合から外すこともありますし、レギュラーを掴みかけた若手を2軍に行かせたこともありますから。すべて、その選手のためを思っているんですよ。打てばよい、抑えればよいというのではなく、その選手の将来、そしてファイターズの未来をしっかり見据えながら、伝えるべきことを伝え、実行すべきことを伝えています。強いチームを作りたいのだということが分かるんですよ。

 どうしても、普通の監督ならこのシーズンに優勝することだけを考えてしまいがちですよね。もちろん、それも大切ですが、その中できっちり選手の特性を理解し、選手のためだったら、時にはチームの犠牲もいとわないような姿勢も見せる。そうなると選手も成長して帰ってきますからね。それもまたチームのチカラになるのは間違いありません。今年だけではなく、もっと俯瞰して全体像を見据えたうえで、今年をどうするかという考えなのではないでしょうか。

 

──強いチーム・勝てるチームの“条件”はありますか?

 要するに、打てる、抑えられる、ホームランを飛ばせるとか、成績を残す選手を育てるより、“勝てる選手”を集めて育てた方が良い。成績を残す選手を揃えていれば、結果的にそのシーズンのタイトルは取るかもしれませんが、果たしてそれが、恒久的に強いチーム作りに繋がっていくかは疑問です。“勝てる選手”というのは、どういう選手か。例え3割3分打つバッターだったとしても、厳しい言い方をすれば、大事な場面で打てなければ、チームにとって価値はないですよね。三打席目の勝負どころで、“オレ、今日一本打ったから、もういいや”という選手を育ててしまってはいけないということです。そういった意味で、選手の姿勢について目配りができる人間が必要です。

 先ほどお話ししたように、まずは自らの行動でメッセージを周囲に伝え、そして“ちゃんと見ているんだよ”と、もちろん威圧的にではなく、チームメイトとして温かな目で、君の頑張りは見ているのだという姿勢が必要です。こういう選手を育てられるかというのは、チームにとって永遠の課題ですよ。私は、技術的には一流とはいえない選手でしたし、大きな実績も残してくることはできませんでしたが、この“目配り”に関しては実践してきましたし、それができる選手としてチームに貢献してきたという自負があります。

 

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“勝てる選手”を育成したい

森本稀哲 講演会講師インタビュー──選手として結果がでないとき、どのようなことを心がけていましたか?

 レギュラーとして出場していた時も、シーズンを通して打てなくなって、結果が欲しくてたまらないといった時期がありました。ヒットを一本打つことができれば打率が下がらないのに……と。でも、欲しがれば欲しがるほど結果が出なくなってしまう。もう、どうにも逃れられないところまで追い込まれた時に、“今日は野球を楽しもう”と思ったんですね。ヒットを打つとか打率とか関係ない、打球もどこに行ってもいい。とにかく来たボールに対して自分のスイングをすればよいと、原点に返った時に、やっと未来に向かうことができるようになったんです。

 “こうしたらああなるかも”と無理に未来を見ようとするとダメなんですよね。本当はどん底まで追い込まれる前、下降しはじめた時点で“いかんいかん、欲しがっちゃいけない”と歯止めを利かせると良いのですが、なかなか気づくことができない。そのままずるずるいってしまって、立ち直ることができずに辞めてしまう選手もいますから恐ろしいですよ。一度吹っ切れると、そこから景色も変わって、自分は何をすべきか冷静に見ることができるようになります。

 

──これからの人生の目標・テーマについてお聞かせください。

 今後は指導者として、これまで話してきたような考え方を若い選手に伝えていきたいですし、“勝てる選手”を育成したいという夢があります。例えば、7点差で負けている試合中盤、5回あたりで相手チームが隙を見せたときに、オッと思える選手がチームの中に何人いるかという話ですよ。かなりの確率で負けそうな試合を、最後まで諦めずに、いかにチャンスを見いだせるかどうか、それが可能なメンタルを持つ選手が多ければ多いほどいいですよね。

 2006~2007年あたりのファイターズでは、そういった雰囲気が感じられました。改めて言うまでもなく、ものすごく良いチームでした。2007年なんて、チーム打率がリーグ最下位だったにもかかわらず優勝できたのですから、いかに“勝てる選手”が揃っていたのかと。この時期は、私もずっといわゆる“ゾーン”に入っている状態にありましたね。“ゾーン”なんて、入ろうとして入れるものではありませんが、自分のやるべきことを明確にして徹底的にやっていくと入ってしまう、そんなものですよ。結局、チームとしても、ヒットやホームランがすべてなのかといったらそうではないということを本当に実感した一年でしたね。個人プレーで負けてもチームで勝てるような、そんな野球集団を作っていきたいですよね。

 チームの力を最大に引き出すには、まずはそのチームが元々持っている力をしっかり把握して、それを発揮できる環境を作ることが大切だと思っています。全部を出し切って、ここが足りないと思ったら補強すれば良いし、将来的にこのチームを変えてくれるような選手だったら新しく迎えたらいい。しっかり役割を分担して適正配置することで、まだまだ現状のチームは強くなると思います。こういった話をすると、ビジネスの世界で頑張ってこられた方から共感を得ることも多いですよね。今後も、皆さんのヒントになるようなお話を伝えていくことができればと思っています。  

 

 

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