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夏野剛 講演会講師インタビュー

かつて「iモード」の仕掛人としてNTTドコモに一兆円を超える収益をもたらし、取締役を務めるドワンゴでは、不可能といわれてきたニコニコ動画の黒字化を成し遂げたITビジネス界の第一人者。人口の減少にともない生産性の向上が急務とされる中、ITやIoT、AIといった新しいテクノロジーをいかに取り込んでいくべきか、そのヒントを与えてくれる。

(text:伊藤秋廣、photo:小山幸彦)

講演会の醍醐味

夏野剛──主にどのような内容の講演を、どのような立場の方々にお届けしていますか?

 

夏野剛:私の専門領域はインターネット、IT、IoT、人工知能、ネットワークが中心となりますが、こういった技術の詳細を知る研究者は数多く存在するものの、それらのテクノロジーと社会、経営、マネジメントの関係性を語れる人間はそれほど多くありません。私は自分自身がITを活用して新しいビジネスをクリエイトしたり、大きな組織を運営したり、あるいは業界にイノベーションを起こしてきたりしました。そういった経験を踏まえながら、少し鳥瞰するかたちで、まず我々は今、どういった時代に生きているのか? という時代背景からご説明申し上げ、現在、IT、IoT、AIをどのように活用していくべきかと頭を悩ませる企業に対し、新しいテクノロジーをいかに自分たちの中に取り込んでいくべきか、といったフレームワークを提供するようなお話をさせていただきます。
どちらかといえば一方的に知識を伝達するのではなく、会場の皆さんに問題を提起し、共に考えていけるような講演を心掛けています。もちろん対象者によって内容の難易度は調整しながらお話をさせていただきますので、それこそテクノロジーやITもまったく理解されていないご高齢の経営者から、情報システム部門の部長クラスまでと、同一テーマで表現を変えながら幅広く対応しています。

 

──著書は勿論、テレビやSNSをはじめとする様々なメディアで情報を発信されておられますが、講演会の場で心がけておられることはありますか?

 

夏野剛:メディアとは違って、講演では時事ネタを織り交ぜながらお話をさせていただきます。昨日のニュースを織り交ぜ、興味を引きつつ、インタラクティブな講演を実施していますので、本やネットの記事を読んでいただくより、恐らく皆さんの胸に突き刺さるような内容になっていると思います。講演をきっかけに、より深く考えていただくようになればという思いがあるので、少し過激な言葉や表現を織り交ぜています。それは、皆さんに、より深刻に捉えて、より真剣に考えていただきたいという考えがあってのことです。そういった過激な表現を用いるということは、メディアを通じて情報を発信する際にはなるべく避けているので、同じ空気を共有するがゆえのこととご理解いただければと思っています。

また、主催者様が許せば、いくらでもご質問を受け付けさせていただきます。むしろ質問をされた方がこちらも楽しいですし、それによってもっと深く、もっと詳しくお話できるというケースもあるかと思います。私が受け持つ大学の授業でも対話が中心となっており、一方通行の話は好ましいことではないという認識があります。やはり双方向のやり取りは、講演会と言うリアルな場に足を運んでいただく最大のメリットだと認識しています。

 

 

グローバル人材

夏野剛──英語での講演を依頼される機会もありますか?

 

夏野剛:大学でも英語の授業を受け持っていますので、それも可能です。これまでも外国人社員向けの講演や外資系企業の社員研修、パネルディスカッションのモデレーターを英語でやってほしいというご要望にもお応えしてきました。英語を使用する場合、一方通行の講演よりパネルディスカッションの方が面白いですね。ITやモバイルといったテーマを設定し、60分間すべて質疑応答といったスタイルも数多く経験してきました。

 

──現在、大企業では勿論ですが、文科省主導の下、教育現場でも「グローバル人材育成」の強化が図られています。これから世界を舞台に活躍するために、必要なものは何でしょうか?

 

夏野剛:グローバライゼーションというのは多様性を理解することであって、少なくとも語学を習得することではありません。もちろん、語学はツールとして習得しておく必要はありますが、それよりも大切なのが、自分と違う考え方をする人を許容できる、寛容性を身に付けることです。ところが残念ながら、日本のほとんどの大人にそれが身に付いていないので、親も参考にならないし、先生だって参考にならない。だから、まず自分なりに多様性を理解し、自分と人は違うのだと、違っていいのだと理解する気持ちを持つこと、そして語学がついて来れば、もうそれで立派なグローバル人材です。

今の若い人たちは元々、音楽や服装の趣味が多様で、“違って当たり前”という感覚が身に付いているから大丈夫。むしろ問題なのは35歳以上、もっともひどいのが60±5歳の層でしょう。ここはまったくグローバルから遠いポジションにあります。「グローバル企業にならなくては!」と旗だけを振っている経営者のほとんどが英語ができないという現状を見てください。語学ができないというのは、すなわち努力をしていないということなので、つまりは努力もできない人が会社を経営していることが最大の問題点なのです。

若者にTOEICを受けさせようとする会社はまず役員からトライすべきでしょうし、そもそもTOEICはグローバルでは通用しません。採用条件に“TOEIC何点以上”なんてある会社はナンセンス。上がやってもいないのに、昇格時の条件にTOEICの点数を盛り込んでいるような会社があるとしたら、そんなところは早く辞めたほうがいいと思います。未来がないから。

 

 

日本企業のIT事情

夏野剛──日本の企業におけるIT事情について、どのようにお感じになられていますか?

 

夏野剛:残念ながら、ITというものを正しく捉えていない企業経営者の方が多くいらっしゃるように見受けられます。会社の中に、仕組みとしてのITさえ導入すれば、それで終わりと考える方が多く、残念ながら社内で発生する、あらゆる行動パターンにITが関与することに気付いていません。この15年間であらゆることが変わっているのに、会社の仕組みやルールを変えていない会社が極めて多く、それがゆえに日本はなかなか成長できないという現状が正しく認識されていないのです。

30年前には生産性の高さが際立っていた日本の企業も、現在ではOECD加盟国の中で極めて生産性が低い部類に入っています。それもひとえに、ITの使い方を間違えているからに他なりません。あるいは、ITの活用方法を正しく捉えきっていないという可能性も考えられます。

どの講演でも常に冒頭で申し上げているのは、この20年間の日本のGDPの成長率が5%だったということです。“成熟経済”だから仕方がないと考える方もいらっしゃるかもしれません。では、同じ先進国であるアメリカはどうなのでしょう? 実は150%の成長率を記録しているのです。この格差こそ、ITを活用したか否かにより生まれたものであると捉えています。つまり、過去20年間の経営者、および社会のリーダーは全員失格なのです。ITが何であるか、 ITが何をもたらしたか、ということに対して決定的に理解が足らなかったのです。そこで私は、「ITって何ですか?」「IT革命って何ですか?」と講演を続けていきます。

アメリカが150%成長しているということは、人口増が35%ですから、少なくとも1人あたりの生産性が100%以上あがっているという計算になります。皆さんの会社は、同じ売上で社員の数が半分になっていますか? あるいは同じ社員数だったら、粗利が2倍になっていますか? なっていないとしたら、それはITが使えていないということなのです。少なくともITを使いこなせない経営者がいるようでは、もう、その時点でアウトという話になります。なぜなら武器があるのに使っていないのですから。SNSの活用、人事制度、教育制度など、本当にITを使いこなせているか? 皆さんもどこかに必ず思い当たる節があるはずです。まずは私の講演をきっかけに、こういった根本的な問題点に気づいていただくことが重要かと思っています。

もっと過激なことをいえば、この講演を聞いた方が今の会社を辞めてでも、自分の人生を考え直していただくきっかけとなることも大切だと思います。そこで“会社が変わらなければ、その会社に所属し続けることがリスクになるのですよ”という話をさせていただきます。30年間も同じ釜の飯を食べてきた人だけで構成されている取締役会だったら、もうその会社は危ない。変わりっこないですよ。摩擦のないところにイノベーションは生まれませんから。

 

夏野剛──ITは私たちに、どのような働き方の変化をもたらしたとお考えでしょうか?

 

夏野剛:20世紀と21世紀の最大の違いは、組織の中に属していなければ専門家になれなかった時代が終わりを告げたことです。それはインターネットの普及によりもたらされました。つまり、どこの組織にも属していないのに、特定のジャンルにものすごく詳しい、いわゆる“オタク”という人種がクローズアップされるようになりました。それでいいのです。そういった“オタク”の能力を伸ばしていったり、利用したりするのがこれからの会社経営のポイントだと思うのです。ですから、新卒の一括採用や終身雇用、年功序列などはすべて20世紀の遺物と考えるべきで、中途社員の活用どころか、もはや中途幹部を採用しなくてはならない、そんな時代が来ているのです。その組織の中には存在していなかった、新しい経験が重要です。

30年間も同じ会社にいた人は基本的には外では通用しません。社内でしか通用しない人材だけで会社を運営しているというのは、まさに“井の中の蛙”という話になります。そういった会社だったら自らの身が危ない。いずれリストラにあう可能性だってあります。役員はもう先がないから良いですが、問題はもっと下の世代の人たちです。家のローンを抱えながらこの先10~20年はお世話になりたいと考えるなら、その会社自体を変えなくてはいけないのです。

とにかく、これまでのやり方を鵜呑みにしてはいけないことだけは確かです。この20年間、わずか5%の成長率しか実現できなかったという失敗経験があるのですから、同じことを繰り返していたらもっとひどくなります。先人がやってきたことなど、失敗例として参考にすればいいのです。
しかし、悲観する必要はありません。この先、代替わりをしていけば必ず良くなります。逆に言えば、代替わりしなければ必ず悪くなる。見渡してみても、伸びている会社は代替わりが上手く行っている好例です。そもそも創業時と現在では必要な人材も変わっていますし判断ポイントも違います。創業以来、ずっとその会社にいる人間が適切な判断を下せるわけがないのです。それは、経営者サイドだけに限った責任だけではなく、これまで雇用対策を民間企業に押しつけてきた政策が生んだ弊害でもあると捉えています。正規雇用、非正規雇用なんて話をしていること自体がおかしい。過激な話をすれば、非正規雇用を認めないのではなく、正規雇用と言う概念をなくせばいい。つまり全員が“パフォーマンスを発揮しなければ去るしかない”という社会の方が幸せかもしれません。なぜなら正規雇用、正社員になりたい人の理由は結局、「仕事をしなくても給料がもらえる立場だから」という話に集約されます。そうやって働いている人間が会社を“甘い汁”だと思っているからこそ、生産性が著しく低下しているのです。

さらに日本の場合、年齢を履歴書に記載することが求められますが、先進国では違法ですね。完全なる年齢差別になります。これを許しているのは日本だけです。その背景に「終身雇用」と言う制度があるのなら、すでにそれが崩壊しつつある今こそ、年齢記載もやめたほうがいい。特に非正規雇用の採用においても年齢記載を求めるのは極めてまずいです。30歳でも50歳でも60歳でも自由に転職できる社会の方がずっと幸せで健全だとは思いませんか? 労働の流動性を高めた方が働く側にも企業にもメリットをもたらすのですから、根本から社会の仕組みを変えていかなければならないのです。

 

 

リーダーの役割が問われる時代

夏野剛──企業マネジメント層向けに講演をされる機会も多いと思いますが、競争と変化の激しい社会の中で、リーダーに求められる資質はどのようなものでしょうか?

 

夏野剛:社会や会社を変えることができるのは、一般人や一般社員ではなく、その頂点に立つリーダーしかいません。社会や会社が複雑化していればいるほど、リーダーがどういった方向に声を発するかによって、首相と国、社長と会社、部長と部の方向性がガラッと変わってしまいます。社会が複雑化して一人の人間の発言が埋もれてしまうのでは? という疑問を呈する人もいますが、それはまったく逆の話。インターネットの普及により、一人の言葉がより多くの人々に届くようになって、発言力のあるリーダーの声が大きな力を持つようになりました。2万人の社員が所属する大きな会社であっても、いとも簡単に社長の声をくまなく届けることができるようになったにもかかわらず、それを実行している方が少ない。すなわち、ITを活用していないということなのです。

逆に言えば、今こそITのチカラで影響力を駆使できる、リーダーの役割が問われる時代と言っても過言ではありません。リーダーの責任が重くなるので、“皆がなりたいものじゃない”のがリーダーでいいのです。社長とは、皆が目指すほど楽勝なポジションではダメなのです。

 

──最後に、これから会社を担っていく若手向けに講演をされる際は、どのようなメッセージを伝えておられますか?

 

夏野剛:若い世代の方々には、皆さんが主役になって変えていかなければいけませんと話をします。「とにかく年上の話は参考にしてもいいけれど、聞くな」と。私が教えている学生たちにも、「もう5年前の知識はまったく役に立たないぞ」と話をしています。「だからこそ、自分で考えて行動しろ」という話に繋がります。

 

夏野剛

 

 

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